それから数日後、封印次元を形成する依頼が登録されたことをわざわざリタさん本人が知らせに来てくれた。しかも、朝早くに。
寝起きの顔に寝癖がついたままの頭。よれよれのパジャマ姿と言う間抜けな格好で出迎えたわたしに鼻を鳴らしたリタさんは、尊大に腕を組んだまま話を続ける。

「アンジュは反対してたけど、この依頼にはあんたを指名させてもらったわ」
「はあ…。えっと、どうして…?」
「これが終われば、ディセンダーの出番も終わりでしょ。最後くらいあんたも付き合わせてあげようと思って」
「…リタさん…」

ぷい、と逸らされた顔が照れ隠しだってことくらいわかっている。思わず小さく笑いを零すと、不意に後ろから着替えを終えたカノンノが顔を出した。

「リタ、その依頼ってまだメンバー決まってない?」
「一応あたしとナマエはもう決まってるけど、あとの二人はまだ決まってないわ。カノンノも行きたいんなら、アンジュに伝えておくけど」
「本当?それならお願いしてもいいかな」
「構わないわ。そうなると、もう一人くらい前衛が欲しいわね…」

その呟きを待っていたと言わんばかりに、廊下の向こうから彼は現れた。

「そんなら、俺が立候補してやるよ」
「スパーダさん」
「俺とカノンノ、リタにナマエ。バランスもちょうどいいだろ?」

な、リタ。そう言うスパーダさんの笑みは、断られるわけがないと自信に満ちていた。
それに乗るのが悔しいのだろう。しかし、彼の腕は本物だ。リタさんは眉を寄せながら、渋々と言った様子で頷いた。

「…まあ、スパーダなら役に立ちそうだしね。思ったより早くメンバーが集まったわ。アンジュに伝えて来る」

リタさんは早口にそう告げると、さっさと踵を返して行った。
カノンノは髪を整えながらわたしに早く着替えようと声をかける。そう言えばパジャマ姿のままだったと思い出し、慌てて部屋に戻ろうとしたわたしの髪を、スパーダさんが軽く引いた。
痛くないほどの力に引かれるまま振り返る。

「寝癖、ついてんぞ」

恥ずかしい。思わず頬を赤くしたわたしが口ごもれば、スパーダさんはどこかご機嫌に笑ってみせた。





準備はいつもより念入りに行った。装備品や回復アイテムを再三確認している内に、ああこれで最後なのだと否が応にも思い知らされる。
壁に立てかけていた杖を取り、眉を寄せる。脳裏に描くのはあどけない少女の姿。ラザリス。結局、あの子とわかり合えないまま終わりを迎えるのだ。
それがあまりにも、あまりにも悲しかった。

「ああ、いよいよね…。ここまで来るのも長かったなあ…」

これで終わりだからなのか、わたしが向かったホールには自然と人が集まっていた。
その中心にいるアンジュさんは懐かしむように感嘆の息を吐き、わたしに気付いて手招いてくれる。頭を下げながら人混みの間を縫うわたしの頭を、肩を、背中を。すれ違う人が励ますように優しく叩いてくれた。込み上げてきた何かに自然と頬が緩む。これで、最後。
既に準備を終えていたカノンノの隣に並ぶ。少しして口喧嘩をしながらやって来たリタさんとスパーダさんも並び、わたし達の顔をゆっくりと見渡して、アンジュさんは慈しむように微笑んだ。

「やっとラザリスを封印出来る。でも、これでアドリビトムの仕事が終わるわけではないわ。ラザリスのためにも、この世界はもっと変わらなきゃいけない。今の私達はこんな風にしか出来ないけれど、いつか誰もが手を取り合い、繋がり、お互いを受け入れられる世界にするためにも」

これで最後だけど、でも、全てが終わるわけではない。
深呼吸をする。終わるわけではないのだ。あの子のためにわたしがするべきことは、きっとこれからもたくさんある。
行くわよと、リタさんが踵を返した。それを追うスパーダさんとカノンノに続こうとしてアンジュさんに呼び止められる。振り返れば、彼女はわたしに手を伸ばした。

「…これからのことは、あなたが帰って来てから改めて話をしましょう。行ってらっしゃい、ナマエ」

頬を優しく撫で上げた白い指先がするりと離れる。慈しむような、哀れむような微笑みに曖昧に頷いて踵を返した。
そうだ、これで終わりじゃない。これですべてが終わるわけじゃないのだ。


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