コンフェイト大森林は、わたしも何度か来たことがある。鬱蒼と木々が生い茂り、どこか不気味な感じがする大きな森だ。

「…どうして、この依頼を選んだんだ?」

大きなため息をつくわたしに気付いたのか、隣のヴェイグさんがそう尋ねた。この人は寡黙で無愛想だけど、わたしの訓練に付き合ってくれたり、船内で迷子になったわたしを部屋まで案内してくれたりした。誤解されやすいけれどいい人なんだと、クレアさんとアニーさんが笑っていた。
先頭を切るシングさんと話すミントさんの背から目を逸らし、躊躇いながら小さく答える。

「…クレアさんの、笑顔が、見たいから」

彼女の、あんな痛々しい笑顔は見たくなかった。いつも胸が暖かくなるような、優しい笑顔で食堂に迎えてくれる。そんな彼女にあんな笑顔をさせたのはわたしで、わたしが無知で無力だったからだ。誰かの役に立てるわたしになりたい。優しい人達の好意に、報いられるような。

「…そうか」
「ご、ごめんなさい」
「いや、…クレアのことを気にかけてくれて、ありがとう」

そう言ったヴェイグさんの表情を、きっとわたしは忘れられないだろう。





シングさんが張り切って先頭を切っているのは、彼の故郷もヘーゼル村のようにウリズン帝国に星晶を搾取され尽くしてしまったからだと、ミントさんが教えてくれた。
どうやらわたしとヴェイグさんが話している間に聞いたらしい。わたしが相当情けない顔をしていたのか、ミントさんが手を握ってくれた。
ミントさんの手も暖かくて、わたしの手は相変わらず冷たかった。

「ヘーゼル村を支配してる帝国の使者は、どんな奴なの?」

道を邪魔する魔物との戦闘は避けられない。剣を仕舞ったヴェイグさんにシングさんがそう声をかけた。
シングさんの故郷に来たのは、とても強くて悪い騎士だったらしい。紫色の髪の、変な喋り方をする奴。その特徴を聞いたヴェイグさんが、弾かれたように顔を上げた。

「まさか、サレか?」
「じゃあヘーゼル村には今、俺の村と同じ奴が来てるってこと!?」

眉を潜めたヴェイグさんと、憤慨した様子のシングさん。どうすればいいのかとミントさんを見れば、彼女は悲しそうに瞳を伏せていた。

「サレという騎士の悪行は有名です…。彼は嵐を起こす力を持っていて、命令に従わない村をいくつも破壊しているとか」
「ひどい…」
「それが、サレという男なんだ」
「うん。俺の村も、そうだった…」

シングさんの故郷も、サレという騎士の嵐を起こす力に土地を破壊され、住民達が犠牲になった。だから、大人しく従うしかなかった。
その結果、村は誰も住めない土地になってしまったのだ。

「くそっ、俺にもっと力があれば!」

シングさんが悔しそうに拳を握りしめる。いつも明るいシングさんのそんな表情は、わたしの胸を刔った。

「…村のみんなも、星晶も、守ることが出来たのに…!」

シングさんの悲痛な叫びから視線を逸らす。噛み締めた唇が震え始めた頃に、桃色の影が視界の隅に映った。


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