「ありがとう、ナマエ。私の話を信じてくれて」

依頼の準備のために部屋に戻ってすぐ、カノンノが小さな声でそう言った。
その真っ直ぐな言葉に無性に居心地が悪くなり、照れたような気分になりながら首を横に振る。

「…だってわたし達、友達でしょ」

懐かしい言葉だった。
彼女もそう気付いたのだろう。嬉しそうに、泣きそうに笑って瞳を閉じた。

「あのね、私、わかったんだ。どうして過去の世界の記憶が私にあるのか」

優しく、まるで宝物のようにその胸を撫でて、カノンノは笑う。

「きっと、原初の世界から続いてきた、たくさんの世界からのプレゼントだったんだ。未来を繋いでいけるという証。希望のプレゼント…」

彼女の中にあるたくさんの世界と、その記憶。それに助けられて何とかここまで来れたわたし達へのプレゼント。それは確かに、希望だった。

「この世界が実りを迎えて、新しい世界がまた生まれる時…私達の記憶も受け継がれていくんだね。ずっと続いてきた記憶。今度は、私達が希望を届けなきゃ」

ここで終わらせちゃいけないんだ。小さく小さく、カノンノがそう呟いた。それが彼女の意志で、覚悟なのだろう。
わたしも、覚悟を。彼女のように、彼のように。もっと固く、堅く、そう簡単に揺らいでしまわぬ覚悟を。ディセンダーになるための、覚悟を。
感嘆のため息と共にわたしも口を開く。

「きっといつか、遠い世界のカノンノによく似た誰かが…同じように記憶を受け継ぐんだよね」
「うん。きっと、そう。だからその時は、私も希望をプレゼントしたい。…いつか現れてくれる希望の光を、ちゃんと受け止めてあげられるように」

きっとわたしと同じように、異世界からディセンダーとしてやって来るなんてことはないだろうけど。いつかの世界に現れるディセンダー。あなたはわたしなんかより、もっと立派な救世主でありますように。





「それじゃあ、それぞれの魔物からウズマキフスベのドクメントを集めるんだけど…今回は二手に別れてもらうわ」

ウィルさんが血眼で調べ上げた結果、ウズマキフスベを食していた魔物が二種類見付かった。
わたしやカノンノを含め手の空いている人に片っ端から声をかけて、集まったメンバーを見比べながらアンジュさんが編成をする。

「そうね、…セネル君とリオン君、ティアと…それからナマエ。この四人で、ケイブレックスからドクメントを集めて来てもらいます」

憔悴しきったウィルさんから恐る恐るケイブレックスの資料を受け取り、ティアさんがリタさんからドクメントピースを受け取った。
ただの板のように見えるドクメントピースは、対象に当てることでウズマキフスベのドクメントを採取出来ると言うものらしい。

「ぐずついている暇はない。さっさとコンフェイト大森林に行くぞ」
「そうだな。何だかんだもう昼過ぎだし、コンフェイト大森林で遭難なんてごめんだ」
「ナマエ、準備は大丈夫?」
「はい、大丈夫です」

平然と答えているふりをしているが、背中に突き刺さるリオンさんの明らかに怒っているような視線が痛くて仕方がない。
圧倒的にわたしが悪いのはわかっているので、この依頼の間彼の視線に耐え続けなければ。妙な覚悟に意気込みティアさん達の後に続こうとして、ふと、振り返る。

「カノンノ」

別のチームで集まっていたカノンノが顔を上げた。

「行ってきます。お互い頑張ろうね」
「行ってらっしゃい。うん、頑張ろう」

甲板でわたしを待ってくれていた三人に駆け寄れば、不意にリオンさんと目が合う。睨まれるかと身を竦めるが、リオンさんはただ視線を逸らして踵を返した。
ティアさんに呼ばれるまま彼らの後に続き、俯いて苦い表情を隠す。視線を逸らされるくらいなら、視線が突き刺さる方がましだった。


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