「今回のナマエの試験なんだけど、二つの依頼から選んでもらいます」
ついにやって来た一人前試験の日。朝から緊張したままのわたしを心配してか、カイウスくんとルビアさん、そしてカノンノが一緒にアンジュさんの元まで来てくれた。
渡された二枚の紙に内容が書いてあるらしいけれど、わたしはそもそもこの世界の字が読めない。わたしが困り果てていると、後ろから紙を覗き込んでいた三人が次々と声を上げた。
「ナマエ、右の方がいいよ!」
「右は何があるか分からないもの、ナマエには危険だわ!ナマエ、左にして!」
「いや、ここはナマエに選ばせてやろうぜ」
カイウスさんの常識的な突っ込みがありがたい。
アンジュさんは言い争う二人とそれを宥めるカイウスさんという珍しい図を微笑ましげに眺めて、わたしが左手に持つ紙を示す。
「ルビアが勧めたのは、ガルーダの討伐。こちらはルバーブ連山の峠で、カノンノと二人で挑んでもらいます」
聞いたことのない名前の魔物だ。でも確か、前にウィルさんが言っていた気がする。最近強い魔物がルバーブ連山の峠に住み着き始めて、通ろうとする人を襲っていると。
顔を強張らせたわたしに気付かないふりをしてくれたアンジュさんが、右手に持つ紙を示した。
「カノンノが勧めたのは物資の移送。コンフェイト大森林まで、ヴェイグ君、シング君、ミントと一緒に届けてもらうわ」
その説明に首を傾げる。その依頼の、どこが危険なのだろうか。
そんなわたしの疑問に、アンジュさんはその指で紙の一部を示す。残念なことに、わたしには何が書かれているかわからない。
「依頼人はクレア、コンフェイト大森林で落ち合うのはヘーゼル村の人。ヴェイグ君達がいなくなってから、村人への監視は厳しくなってる。そんな状態で帝国の目を盗んで、ヘーゼル村の人達に物資を届ける。確かに、こちらの方が危険を伴うわ」
呼吸に失敗して、喉が変な音を立てた。
忘れもしない名前、ヘーゼル村。クレアさん達の故郷で、現在はウリズン帝国に星晶を搾取されるがままの村。
普通に考えれば、わたしみたいな見習いがやるべき仕事じゃない。それでもアンジュさんが選択肢を与え、この依頼を試験としてわたしに示した。
両手に持つ紙を見比べ、迷いを断ち切るように目を閉じて息を吐き、紙を突き出した。
「こっちで、お願いしますっ」
わたしが選んだのは、今も食堂で物憂げな顔をしているであろう、笑顔の素敵な彼女からの依頼だった。
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