異世界からの客人なんてものは、わたしだけだと思っていた。ルミナシア的に非常識な存在であるわたしが言うのも何だけど、常識的に考えて。

「俺、カイル・デュナミス!元の世界に帰れるまで、ここで働くことにしたんだ。よろしくね!」
「私はリアラ。ギルドの仕事って初めてだから、たくさん教えてね。よろしくお願いします」
「俺の名前はロニ・デュナミス。…お嬢さん、俺はきっと、あなたと言う運命の相手と出会うためにこの世界に舞い降り…っだァ!?」
「ジューダスだ」

差し出された手を、向けられた微笑みも、上がった悲鳴も、振り下ろされた剣の鞘も無視して、引きつる笑顔でアンジュさんを見た。
デジャヴュだ、これはデジャヴュだ。

「彼女はナマエ、これからあなた達の教育係をしてもらうわ。異世界の人間同士、仲良くしてあげてね」

やっぱりか。
目を輝かせたのはカイルさんとリアラさん。驚いたような顔をしたのはロニさんで、怪訝そうな顔をしたのがジューダスさん。らしい。
彼らはつい先ほどハロルドさんが行った実験のせいで異世界からルミナシアへと呼び出されてしまい、わたしと同じく、元いた世界に帰る方法を見つけられるまで、ここで働いて暮らすそうだ。
何という、二重のデジャヴュだろう。

「…異世界の人間って、そう珍しいものじゃないんですね…」
「世間的に見ればものすごく珍しいんだけど…」

ナマエがいるしね。
そう遠い目をして言ったアンジュさんに、何だか申し訳なくなった。





「ナマエ、少しいいか」

カイルさん達が元々いた世界もどちらかと言うとファンタジーだったらしく、ルミナシアに馴染むのも早かった。
元々彼らは普通に戦えるし、きっと試験も軽々とクリアするだろう。いかに自分が出来ない子だったかを思い知るようだ。
ヴェラトローパを物質化させる機械の研究はうまくいっていないらしいので、まだまだ先の話になるだろう。じりじりと、焦燥感がわたしの胸の内を苛んでいた。
そんなある日に、ふと、珍しくヴェイグさんから声をかけられた。

「大丈夫ですよ。どうかしましたか?」
「受けてもらいたい依頼がある。…ヘーゼル村の皆を、移住させることになった」

目を見開いたわたしに、ヴェイグさんはどこか苦痛の混じったような声で言った。
ヘーゼル村での星晶の採掘が終わり、解放されるかと思っていた村人達だったが、別の採掘場へと連れて行かれ、強制労働を強いられている。
村に残された村人達も、星晶が無くなりマナが枯渇した地で生きることは出来ない。それならいっそ、多少不便でもマナの恵みを受けられる地へ、村ごと移住してしまおうと言うことらしい。

「俺とユージーンは連れて行かれた村人達を助けに。アニーとティトレイはヘーゼル村へ。それぞれ村人達を連れて新しい土地を求めてカダイフ砂漠を越えるつもりだが、魔物が多くて村人達には危険な旅になる」
「依頼はカダイフ砂漠の魔物の討伐、ですね」
「ああ、…受けてもらえるか?」

大きく頷けば、強張っていた彼の表情が少しだけ和らいだ気がする。
忘れもしない、わたしが助けられなかった人々。そう、忘れられない。わたしが初めて見た、自分の血の色も。
脳裏に蘇る血の色と、病的なまでに白い肌。鋭い瞳と歪んだ唇。ひやりと背筋を震わせた残像に、ヴェイグさんに縋り付いた。

「サレ、…サレと戦うんですか?」
「分からない。出来ることなら、サレがいない時を見計らって村人達を救出するつもりだが…そう上手くいくかどうか」
「…そ、そうですか…」

サレを始めとして、人間を相手にして戦ったこともある。けれど、サレと対峙したあの時の恐ろしさは異様だった。

「俺達はすぐに船を降りる。…クレアを頼んでもいいか」
「は、はい…。その…、お気を付けて」

ヴェイグさんはわたしの言葉に何も返さず、けれど、少しだけ目元を緩めた。
そういえば、あの時の彼も同じ表情をしていた。


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