小ネタ&妄想倉庫
夢主の名前はナマエ固定

2011/07/10

彼はいつでも、わたしに居場所をくれようとしていた。わたしが、それを受け取ろうとしなかっただけで。


不定期に、途絶えることなく届けられる手紙。
いつか彼が聞かせてくれた、妹の名。その小さく可愛らしい文字で書かれた名前を指でなぞる。
いつまで彼は、この船にいるのだろう。
ルミナシアは平和になった。星晶を巡る争いもなくなり、エステルさんやナタリアさんの努力のおかげで、少しずつ国同士は歩み寄っている。
アドリビトムの中でも、戦争により失った故郷や傷付いた村を復興しようと、一時的にだが帰る人も増えてきた。
彼も、今もどこか遠くの村で、大切な妹が帰りを待っているはずなのに。
小さな封筒を眺める。
それが異様に恐ろしいもののように思えたわたしは、どうやら嫉妬しているらしい。
所詮わたしな偽物なのだと、嘲笑った。





「いい加減、帰ってあげたらどうですか?」

そう言って手紙を手渡せば、チェスターさんは目を見開いた。
わたしは苦笑いする。

「妹さんもチェスターさんのこと待ってますよ。もう世界も平和になったことですし、帰ってあげてください」

きっと寂しがっていますよ。そう言えば、チェスターさんは思い切り眉を寄せた。

「お前は寂しくないってのか?」

今度はわたしが目を見開く番だった。
寂しくない、わけじゃないけど。でも、大丈夫。チェスターさんは妹さんと一緒にいるべきだ。クレスさんからも聞いている、彼らはとても仲睦まじい兄妹だと。きっとわたしなんかより、妹さんの方が寂しがっている。
瞬きを繰り返し、無理矢理笑顔を浮かべた。

「少し寂しいですけど、でも、大丈夫です」

その言葉に嘘はないはずだった。わたしは、笑えていたと思う。
チェスターさんはそんなわたしにその目を瞬かせると、不意に和らげた。
弓を引き絞り射る大きな手が、わたしの頭に優しく乗った。

「それならこれは、俺のお節介かもな」
「何がですか?」
「ほら、」

チェスターさんに渡したばかりの手紙を、逆に突き返された。戸惑いながらも受け取れば、開けるように促される。
彼の真意が分からずに、その顔を窺いながら丁寧に手紙を開いた。
可愛らしい文字の羅列がまた、恐ろしく感じる。

「アミィに相談してたんだよ」

ふと、文字を滑らせていた目を止める。
チェスターさんを見上げれば、照れたような笑顔の彼が、笑う。

「家族にしたい奴がいるんだ、ってさ」

手紙の中には、新しい家族の誕生を喜ぶ顔も知らない彼女がいて。
こんな醜い想いを抱えるわたしを、歓迎してくれていた。
文字が滲んでいく。もっともっと、この言葉達を見ていたいのに。そこに存在するわたしの居場所を、もっと、もっと。

「なあ、ナマエ。お前さえ良ければ、さ」

チェスターさんの大きなてのひらが、震えるわたしの両手を優しく包む。
見上げた彼は真摯に、わたしを見つめていた。
その手を、握り返す。

「俺の妹になって、三人で暮らさないか」

返事の代わりにその胸の中に飛び込めば、たくましい腕がわたしを包み込んでくれる。
当たり前のような、平凡な幸せ。失くしてしまったそれを、わたしはようやく、取り戻した。


(お父さん、お母さん、わたしね、お兄ちゃんと妹が出来たよ)

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