「この道を歩いていくとマサラタウンにつくらしいよ」
『…ふーん』
「マサラタウンにはオーキド博士っていうポケモンの研究をしている有名な博士でね」
『…ふーん』
「…冷たくないかい?」
『…分かってんだろ』
「私は幸せだからわかんないなあ」
『あームカつく…いい加減降ろせ!』

ブイが腕の中でじたばた暴れる。抱き上げられるのが相当嫌みたいだ。私が先程植えつけたトラウマのせいでもあるんだろうが…

「こんなこと、進化前しかできないじゃん。今堪能せずいつ堪能する」
『俺以外にしろ』
「それにこれはブイが疲れることを防げるうえに私がフワフワ感を堪能できるという、それはそれは素晴らしい作戦で…」
『お前といることですでに疲れているからそのメリットは消えた』
「なんと…でも離さない」
『オイ』
「………」
『無視か。…これ以上絞めると噛むぞ』
「は、はい」

溜め息と共に許可はもらえたけど、これは本当に許可なんだろうか。私の死刑宣告にも聞こえる。
アニメで見る様な森の風景を歩いていると、サトシになったような気分だ。肩にピカチュウをのせたい。メスも可愛いけどやっぱりピカチュウはオスに限ると思うんですが皆様はどうでしょうか。
私の思考が読めたのか、軽蔑の目で私を見る。酷くないか。
そんなことをしていると目の前に看板の様なものが見えてきた。

「看板ですよ、ブイ隊長!行ってみますか?」
『…勝手にしろ』
「アイアイサ『い゛ッ』…」

足で何かを踏んだ感覚がした。嫌な予感しかしない。今何があっても視線を下したくない。ブイもめんどくさいことしやがってという目で見てる。
恐る恐る足をのけて踏んでいたものを見ると、草むらから出ていた大きなネズミの尻尾があった。出てこなくても分かるなこれは。…弁解できるだろうか。

「ご、ごめんなさーい…」
『いってぇじゃねぇかゴラァ!!』
「ラ、ラッタァァァ!!!」

草むらから飛び出る前に駆け出した。が、ラッタは後を追いかけてきた。

「ちゃんと謝ったじゃん許してくれてもよくない!?草むらを出たんだよ!?追いかけてこなくてもいいでしょゲームなら!!何、アニメのオニスズメの再来なの!?パートナーとの友情深めればいいの!?てか、尻尾だしてた君も悪い!」
『落ち着け。だいぶ混乱している』
「君は冷静過ぎ!!」
『俺は初めて感謝している』
「こいつ…!!」

余裕そうなブイを投げ捨ててやろうかと思ったが、そんな隙もない。ラッタと人間…どちらか早いかなど明確だ。どんどん距離が迫っていく。

「何この勝ち目のないデスゲーム…ッ」
『もう少しで追いつかれるな。もっと走れ』
「う、恨んでやるっ…」
『…しょうがねぇ』
「あっ、」

ブイが腕から抜け出し、私の肩を飛び台にして空高く跳び上がった。空中でくるりと舞い、ラッタに向かっていく。尻尾は光沢のある銀色に光っていた。そしてそのまま銀色の尻尾をラッタの背中に叩きつけた。攻撃をもろに喰らい、ラッタは悲鳴を上げその場に倒れた。着地したブイがラッタを睨むと、怯え、さっさと草むらの中に戻っていった。
生バトルの迫力ヤバい。さっきのはアイアンテール…この世界には技マシンという概念は無いのだろうか。それにしてもブイが強い。イーブイに怯えるラッタとか新鮮すぎる。

「ブイ様…恨んでやるとか出過ぎた事言ってすみません!感動しました!」
『何キャラだよ』
「本音を言うと感動超えてひきました」
『……』

普通に考えてレベル差がないと無理だと思うんだけど…ブイ様怖い。

「素晴らしいバトルじゃ」

拍手と同時に聞こえた声に動きが止まった。この声には聞き覚えがある。警戒しているブイを制し、声の方に向いた。
やっぱり。
いたのは、話にも出ていたオーキド博士だった。

「有難うございます」
「よく育てられたイーブイじゃ」
「光栄です」

私の隣にいるブイをオーキド博士が眺める。警戒しているブイを気にすることなく笑う。

「さっきラッタと戦っていた時…
君…ポケモンと会話しておらんかったか?」

あら。


なんやかんやでオーキド研究所にやってきた。
紅茶とクッキーを食べながら奥に行ったオーキド博士を待つ。

『…よく落ち着いて食えるな』
「見られたら隠し通せるとは思えないしね。多分信用できる人だし、誰か知っている人がいると心強い」

扉が開いた。オーキド博士かと思ってみたが、違った。この茶髪の青年よく見たことがある。

「…客?あれ、じーさん…オーキド博士は?」
「奥に入っていきましたよ。もうすぐ帰ってくると思います」
「なんじゃ、グリーン予定より早く来たな」
「別に用事もないからいいだろ…と思ったけど、帰った方がいい?」
「…息子も聞いても構わんか?」
「大丈夫ですよ」

知っている人は多い方がいい。

「いきなり本題で悪いが、本当に君はポケモンと話せるのか」
「はい、証拠は…見ましたね」
「そんな奴ホントにいるのか…」
「後、話しておきたい事が…」

私が異世界の人間であること、私の世界ではポケモンはゲームやアニメであること、なぜかこの世界に来てしまったこと。そのあたりを掻い摘んで説明した。二人とも驚いたようだったが、詳しく説明すると納得してくれたようだ。少し、安心した。
話し終わると、ブイが腕をひっかいた。何回も引っ掻くから流石に痛い。

『聞いてない』
「…いう時がなかったし」
『…はぁ』

溜め息をつき、ブイは伏せてそっぽをむいてしまった。言ってなかったのは申し訳ない。怒ったかな。

『(隠し事をしていたことは怒っていない。それをいうのが、なぜ俺じゃなくアイツらだ。
 ―嗚呼、無性にいらつく)』


「そういうことならこちらも全面的に協力しよう」
「ありがとうございます!」
「名前を言ってなかったなのぅ。オーキドじゃ。ここで博士をしておる。これは孫のグリーンじゃ。年も近いじゃろう。仲良くしてやってくれ」
「よろしく」
「私は華音と言います。よろしくお願いしますね」

二人と握手を交わす。渡したいものがある、とオーキド博士は奥に帰っていった。

「グリーンさんは何をしにここに?」
「ポケモンをもらいに来た。年近いだろうし敬語なくていいよ」
「…そんなに幼く見えます?」
「いっても12歳ぐらいだろ」
「…16歳、です」
「……は?」

16歳なのにこの身長で童顔なのはコンプレックスだ。よくグリーンのような反応はされる。でも16歳なのは本当なので何も言えない。

「年上なら尚更敬語いらないだろ」
「…そうだね、普通にするよ。敬語は癖なんだ。気にしないで」

そうしているうちにオーキド博士が帰って来た。

「もう打ち解けたようじゃな」
「はい」
「わしにも敬語はいらんから好きなように話してくれ」
「うん、わかった」
「で、ポケモンは?」
「急かさんでも持って来とる。こいつ、幼馴染に先を越されて焦っているんじゃ」
「ばっ、それは言うな!!」

幼馴染がいるのか。名前から行くとゲーム主人公のことになるのだろうか。会えたら、会いたいな。
オーキド博士がボールから三匹のポケモンを出す。出てきたのはフシギダネ、ヒトカゲ、ゼニガメだ。

「好きなのを選ぶといい」

グリーンが真剣に選んでいる間に私もポケモンに近付く。一番近くにいたゼニガメに近寄ってみた。不思議そうこちらを見上げている。その可愛さに笑って撫でると無邪気に喜んでくれた。………これは誘拐してもいいだろうか。

『目が怖い』
「ごめん。一瞬自分でもどうかしてたと思う」

「…俺、コイツにする」

グリーンはフシギダネを抱き上げた。『よろしくね、マスター』とフシギダネが笑う。
やっぱりフシギダネも可愛い。それに性格もいい。

「ブイもマスターとか呼んでみない?」
『これから馬鹿と呼ばれたいか』

流石にこれから馬鹿と呼ばれるのは嫌なので黙った。

「君にこれを預ける」

オーキド博士が渡してきたのはポケモン図鑑だった。デザインはカントーリメイク後のものだ。

「知っているだろうがポケモン図鑑じゃ。最新型で、昔はゲットしなければ情報が入ってこなかったが、かざすだけでポケモンの情報が分かるという優れものじゃ。これをあげよう」
「こんな立派なもの…いいの?」
「その変わりに旅をしてポケモンの情報を集めて欲しい。頼めるかの?」
「旅はするつもりだったし…有難く頂戴します!」

やった!ただで図鑑貰っちゃった!グリーンもズルいと言って絡んできたのでオーキド博士がやれやれと図鑑を渡す。私とフシギダネが笑うと私だけ怒られた。何故。

「…もう一つ折り入って頼みがある」
「私にできる事ならするよ」
「先日傷だらけのポケモンを保護した。カントーでは見ない…確かシンオウのポケモンじゃ。迷い込んだか…トレーナに捨てられたか分からんが、心を閉ざしておって部屋は出ないし、一切食事を取らん。弱っていくばかりでな…どうにかしてやりたんだが、わしには何も…ポケモンと話せる華音君なら何かしてやれるんじゃないかと…」
「わかった。会ってみる」
「有難う。着いてきてくれ。グリーンも早く帰るんじゃぞ」
「はいはい。華音後で遊びに来いよ」
『待ってるよ!』
「楽しみにしてるね」

グリーンとフシギダネに手を振り、部屋を出て行ったオーキド博士についていった。


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