※ 偽名=ハナ固定 ※


「ねえ、うちのニャース預かってるはずだけど」
「はいこの子ですね」
「嫌ニャー!!ニャーはハナのうちの子になるニャーー!!」
「何言ってんだよ!?」

私は今嬉しくて死ねそうです。今私の目の前にいるのはあの有名なR団のムサシ、コジロウ、ニャース。ポケモン好きとしては会いたい人上位にランクインしている人達で…今演技してなかったら泣いてる。

「ハナー、また来るからブラッシング頼むニャ」
「はい、待ってます」
「おっ前、なんて羨ましいことを…っ」
「まああたしの次ぐらいには可愛いんじゃない?」
「そんな事ないですムサシさんはもっと美人です!」
「そお?可愛いこと言うわねハナー」

嗚呼、幸せです。初めて違う意味でR団に潜入してよかったと思いました…
また会う約束をして三人と別れ、仕事に戻る。

『や、やっと帰りました…』
「よく我慢できました」
『ハナさんがいてくれたので…』

後ろに隠れていたイーブイちゃんがひょっこり顔を出す。イーブイちゃんにはすっかり懐かれ、よく後ろをちょこちょこ着いてくるようになった。なんだろう…刷り込みして小鳥の親になった気分だ。すごく嬉しいけど少し罪悪感を感じる…

「大分仕事に慣れたねー。イーブイちゃんもぞっこんだし?」
「先輩。なんか申し訳なくなってきました…」
『す、すみません私何かして』
「大丈夫何もしてないよ」

イーブイちゃんとのやり取りを見ると先輩はいつも笑う。何が可笑しいのか。聞いてもほんと仲いいね、としか言わない。
やっぱり不思議な人だ。

「ッ」

ぴこっとイーブイちゃんの耳が立って、先輩の空気が変わった。
いきなり腕を引かれ、部屋の奥に連れて行かれた。

「先輩、どうしたんですか」
「ハナちゃんは会わない方がいい」
「え…イーブイちゃんは」
「アイツはイーブイの様子を見に来た」

奥から覗くとイーブイちゃんは檻に戻っていた。
部屋にいたのは、眼鏡をかけたインテリ研究員。年は30代といったところ。何も無い、普通の人に見える。…少し、誰かに似て…

「人を騙す天才だと思う。見かけは普通だけど、世の中の生物全て実験体[モルモット]と思ってる」

どういうこと…?
珍しく先輩から冷や汗が出ていた。目も研究員を見るというより、どこか遠くを見ていた。

「アイツは結果だけ言えば凄い経歴を持ってるけど、地位には興味ない。研究出来ればどこでもいい、研究しか頭にない。
その内容が酷い。その実験体の一人が…イーブイ。けっこーえぐい話になるけど、聞く…?」
「…私なんかが聞いていいんですか」
「…ハナちゃんは知っててほしい」
「…お願いします」

周りを確認してから、先輩は話し出した。

「イーブイがきたのは半年前だったかな。アイツの研究がまた一つ成功して、次の実験体として独りだったイーブイを騙して連れてきた。
前回成功してアイツは味を占めていた。改良して…自由に7進化出来るイーブイを作り出そうとした」
「…へ?え?」
「進化後の遺伝子を全て取りこんで自由に切り替えれるようにする…結果、実験は失敗。イーブイは遺伝子が適合せず、暴走して死ぬ予定だった。
でもイーブイは死にたくないという思いで押さえこんで乗り越えてしまった。そのせいで簡単にイーブイが死なないことを知って、実験の酷さが増した。実験、失敗、体調が治る前にまた実験、失敗、…その後にやっと成功。それを全て耐えて、イーブイは7進化自由にできる…アイツの言葉を借りれば"作品"、になってしまった。後遺症で目は瑠璃色に…唯一の救いは怪我をし過ぎた結果体が強くなり治癒力が増したこと、かな」

傷少なかったろ、と自嘲めいた笑みを零した。その言葉でイーブイちゃんの体を思い出す。今でも、かなりの傷が古傷として残っていた。
ふつふつと湧く怒りに、頭の中が真っ黒になる。

「許せ、ない」
「ハナ…?」
「…許さない」

何かが切れた。すうっと頭が冷える。
部屋の外に出ようとすれば、腕を引かれた。

「ハナちゃん、話聞いたでしょ!会っちゃ駄目だ!」
「でも、あの人がイーブイに酷いことをしたんでしょう。ほっておいたら同じことを繰り返す」
「ッ」
「だから、今…」

『そこのフード止めろ!!』
「、分かった!」

夜の言葉に従う先輩の腕を振り払って、男に向かおうとすれば、腰に抱き着かれ止められた。

「霙、」
「駄目」
「離して」
「あの人だけは関わんないで」
「嫌だ」
「お願い、あの人以外なら誰をどうしてもいいから、あの人に関わったら、絶対、壊される、実験体にされる」
「そんなの、」
「お願い…僕がこんなに頼んでるんだから聞いてよ…」

ぽたり、ぽたり、と雫が服を濡らす。しゃくり声も聞こえる。服にしがみ付いて泣く霙はとても霙らしくなくて。

一滴一滴で頭が透き通るような気がした。

「ごめんね、霙」
「うわっ」

腰に抱き着いていた霙を抱っこで持ち上げた。
ぽろぽろ落ちていた涙はびっくりしたことで引いたみたい。

「何馬鹿なことしてんの降ろしてよ」
「あはっ、いつも通りの霙だ」
「…いつも通り馬鹿だね」
「ぼんやりとしか覚えてないけど、ありがと。ちゃんと届いた」

また目がうるんだ。それを隠すように私の首にしがみ付いた。
初めて霙が心を開いてくれて、嬉しい。


「早く降ろせ」

擬人化していた夜に背後から頭に拳骨された。

「痛い!霙落とすとこだったじゃん!」
「…男の嫉妬は醜いね。だっさ」
「…あ?」

バチバチと火花が散る。分からないけど、出来れば私を挟まずしてほしい。

『また、前みたいになると思ったわ』
「霙のおかげだよ。心配させてごめん」
『ふふっ、気にしないで』

出ていた蘭は私の言葉に満足して、ボールに戻った。前の状態を一番知っているから心配させちゃったね。

「お取り込み中のとこ申し訳ないけど、アイツ帰ったよ」
「先輩有難うございます」
「もうめんどーだから敬語いいよ」
「そう?
…霙、降ろすよ」
「ん」

チャリ、と霙の首のネックレスが揺れた。
そのネックレスを見て先輩があからさまに動揺した。

「君…その首の、」
「知ってるんだ」
「まあ、」

やっぱり先輩は普通の人じゃない。多分…

「なんとなくわかったろーけど、おれとハナちゃんのヒミツ」

頭にデコピンを一発。皆頭狙い過ぎ。
霙を見る。下を向いていて目が合わない。しゃがんで視線を合わせた。

「捨てないからね」
「…」
「R団のポケモンだったってくらいで捨てたりしないから」
「、ん」

頭を撫でたけど抵抗はなかった。少し素直になった霙は前とは違う意味で年相応に子供らしくて、可愛かった。

イーブイちゃんの檻に近付くと、自分から出てきた。すぐに私の足にすりすりじゃれてきた。

「大丈夫?」
『…聞いたんですか?』
「うん、ごめん」
『気にしてません。ハナさんなら、いいです。…怖かった』

初めての時のようにふるふると体が震えている。抱き上げて、ポンポンと背中を叩いて落ち着かせた。

「これからどうすんの?ハナちゃんがR団に潜入しに来たことは分かってるけど」
『……ハナさんR団じゃないんですか!?』
「そうだね。ついでにそれ偽名」
『え!?』
「だろーね」
『私はハナさんの側にいたのに全然わからなかったなんて…』
「そんなに沈まなくていいよ。気付く方が変だから」
「俺の方がおかしーみたいな言い方やめてよー」

けらけらと先輩が笑う。再度の一度、しかも自虐的にしか笑わなかったあの話の時の面影はなくて、いつも通りの先輩で嬉しかった。

「で、どーすんの?」
「取りあえずボス倒して追い出す」
「ごーいんー」
「本拠地でもないし、徹底的にやっとけばボスがいなくなったら自然と機能しなくなるよ」
「正義の言葉じゃなーい」

ガヤうっさい。

「先輩どうする?止めなくていいの」
「うーん別に未練ないし。本拠地行こっかな、したいことあるし」
『私は…住むとこなくなっちゃいますね』
「終わったら警察には連絡する予定だから住むとこはもらえると思うけど…イーブイちゃんは行くとこないならついてきてほしいな」
『私なんかがいいんですか?』
「私は君がいいな」
『是非着いていかせてください!』

初めてイーブイちゃんが尻尾を振った。よほど嬉しかったんだろう。

「仲間は6匹越えちゃうけど…余程のことがないとばれないでしょ」
『そ、それは大丈夫なんでしょうか…』
「無理でも連れてくから大丈夫」
「ズルい正義の味方ー」

ふと、瑠璃色の瞳に目がいった。

「…貴方は瑠姫ね」
『るき…名前ですか?嬉しいです!』
「瑠璃色の瞳と女の子だから姫で瑠姫ちゃん!」

意味を聞いて、イーブイちゃんの尻尾が止まった。

『…やっぱり目の色、変でしょうか…』
「変じゃないよ、似合ってるから変じゃない」
『貴方にそう言ってもらえるなら、私も自分のこと好きになれそうです』

ふにゃあと笑う瑠姫は天使のように可愛くて、思わずぎゅっと抱きしめた。それに精一杯答えようとしてくれて、今までないタイプの天使で私は幸せ。

『そういえば、お名前は何というのですか?』
「華音だよ」
『華音さんですか!素敵なお名前です』
「かあいい名前だね華音ちゃん」

ひょこっと出てきて目の合った先輩の顔をガン見する。

「…無言で見られると怖いんだけど」
「名前ってある?」
「まあ、無いけど」
「じゃあつけていい?」

予想外だったのか、珍しく目を見開いた。表情がこんなふうに壊れた先輩は初めてだ。

「…ふふ、イケメンな名前にしろよー」
「真澄」
「ますみって女の子みたい」
「目とか髪とか、空みたいで澄んでいて綺麗だから」
「ん、ありがと」
「…やっぱり教えてくれないんだ」

真澄にだけ聞こえる声の大きさで呟く。

「なんか隠してる理由とかわかんなくなったや。でもヒミツ」
「えー…」
「男はミステリアスな方がいーでしょ」
「……」
「嘘嘘、今度教える。じゃーね」

ひらひら手を振って、先輩は外に出た。絶対誤魔化す気だ。
まあいいや…私も動かないと。


巡り巡って
(貴方に出会えた)



嗚呼、涙が出そうだ。

「さいこーに自分に合ってない名前だと思うのに、なんでこんなに嬉しいのか」

(真澄)
彼女の声が耳に響く。

「嘘ついてごめんね」

(おれは自分のこと話す勇気はまだない)


140812


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