※ 偽名=ハナ固定 ※


今日も入り口の見張り。毎日同じことをしていると誰でも嫌気が溜まるもので。特に今日は休みが遠いこともあってイライラMAXだ。

「あの、すみません」
「あ?なんだこっちは忙しい…」

そんな時後ろから声が聞こえた。八つ当たりで舌打ちして振り返れば、そこにいたのは天使だった。
仕事で頭がおかしくなったと思われるかもしれないが嘘じゃない。天使というのは比喩で、オレに話しかけてきた少女は本当にそれぐらい可愛かったのだ。

毛先がくるんとまいた長い黒髪に黒パーカー、短パン姿の少女。小柄でスタイルもいい。すらりとした生足に生唾を飲んだ。足フェチで悪かったな!!
深くかぶった帽子の影からちらちら俺を見る。顔が見えにくいが、ちらっと見えた顔は幼いけど見たこともないくらい顔が整っていた。
日頃から隊員以外の女の子、その上こんな可愛い子に話しかけられることなんてなかったので、大袈裟なくらいに動揺した。

「ええと、な、何か用?」
「…R団の方ですか?」

いつも制服を着ているのでこう言われることは少なくない。
理由は興味や正義感でバトルを仕掛けてきたり、警察に通報したり様々。平常心を装って肯定して素っ気なく聞き返した。

すると、予想外の答えが返って来た。

「わ、私を仲間に入れて下さい!」

何、だと…
こう言われたのは初めてで、どうあしらおうと考えていた思考が止まった。
でもこんな可愛い子がわざわざ自分からR団にならなくても他に道がいっぱいあるんじゃ、

「誰も頼れる人がいなくて、お金もなくて…もう手段がなくいんです」

大きな目には涙が溜まって、すぐにも零れそうだった。
俺は可愛い子を泣かせることなんて出来なくて、二つ返事でOKしてしまった。

「有難うございます!本当はすぐ突き返されると思っていて…R団って悪い人ばかりじゃないんですね」
「あはは…」

さっき泣きそうだったのが嘘みたいで。キラキラとした目で俺を見上げる。こんな子をR団に引っ張ってしまうことに喜びと罪悪感を同時に感じる。こんな思いしたの入って初めてだよ…
勝手に入れたこと上司に怒られるんだろうなあ…胃が痛くなってきた…

これ以上外で騒いでいると周りに目を付けられそうだったので、少女をアジトに案内した。

「広いから初めは迷うかもしれないけど、フロアを行き来することはないからあんまりないから覚えなくてもいいよ」
「はい」

来客用の部屋に連れてきた。今日は誰も来るって話を聞いてないので、案の定誰も居なかった。

「ここで待ってて、上司呼んでくるから。…あ、名前は?」
「ハナです」
「ハナちゃんね。帰ってくるまで好きな様にしてていいから」
「有難うございます」

ハナちゃんか。可愛い子は名前まで可愛いんだな。心の中で顔を思い浮かべながら、何度も名前を復唱していた。


『…セキュリティ甘ッ』

ゲームの主人公もボタン一つで簡単に入れたしなあ…現実でもこんなものなんだろうか。

『らくしょーだったな!』
「アジトの前に居たのが下っ端、しかも男だったしね」

先程のお言葉に甘えてふわふわそうなソファーに座った。何もないシンプルな部屋なので商談用の部屋かな。何よりいい座り心地のソファーだ。

『ねえ、それわざとなの』

寝転びたいなーなんて考えてた時にそんなことを言われた。
霙が言いたいのは姿全体というよりは短パンから見える生足とかわざとらしい態度のことを言ってるんだろう。

「武器は有効活用しないとね」
『…ほんと食えないヤツだね』

見た目は皆のお墨付き。悲しいことに胸はないから勝負できるのは足しかない…言ってて泣きたくなってきた。

『確かに気にしてたけど、華音が潜入しなくても…』
「うーん…ごめん」
『全然悪いと思ってないでしょ。今は大丈夫そうだからいいけど…嫌な予感がしたら絶対逃げてね』
「やばくなったらね」

サカキがいる以外のイレギュラーがなければぎりぎり、やれないことはないはず。

「私には皆がいるから。いざとなったら助けてくれるんでしょ?」
『…調子いいこと言って…R団は、怖いのよ』

実際に襲われた蘭達の言葉だから、言いようのない重さがあった。

「…わかってる」
『…絶対、頼ってね』
「うん」

話が途切れた時、丁度男が帰って来た。立ち上がって迎える。

「ハナちゃん、上司連れてきたんだけど、」
「どうしたんですか?」

聞き返しても彼の歯切れが悪く、緊張した様子でどこか申し訳なさそうに口を開いた。

「ごめん、すごく偉い人連れてきちゃった…」

いるかも、ぐらいは思ってたけどすぐ見つかるとは。しかも今日は二人か。

「最高幹部の准様と直属の部下の方です」
「……」
「ああ、」

嗚呼視線が痛い。

「よ、よろしくお願いします」
「…私はよろしくしたくないです」
「え、えっと…」
「あの、お知り合いで…」
「いえ、初対面です。貴方は仕事に戻りなさい」
「は、はい!じゃ、ハナちゃん頑張って!」

彼は部屋を出て行った。そう言ってくれるなら部屋に残って欲しかったです。
見て無くても分かるぐらいに桜色の人の視線が痛い。
准はいつの間にかソファーに座っていた。座れと言われたのでその通りにした。

「……」

沈黙が重い。すぐ追い出されたらどうしよう。気付いてない…なんて訳はないな。隣の桜色さんは絶対気付いている。態度にあからさまに棘がある。

「なぜ貴方はここに?」

顔は笑っているが目は笑ってない。すぐにでも帰れと目が語っている。

「…野暮用がありまして」
「そうですか。ではおかえりください」
「話を聞く気ないなら聞かないでください…」

意見を曲げる意思を微塵も感じない彼をどう言い聞かせるか…無理じゃないかコレ。
やけくそになりそうだった私に准は、

「すぐ終わらせろ」

助け舟を出してくれた、のかな…
その一声で不満そうに桜色の人も帰すのを諦めたみたいで。

「私達…いえ、准には迷惑を掛けないでくださいね」

釘は刺されたけど、いることを許してくれた。

「何かあったら言え。呼ばれれば行く」
「なんでそんなに、」

私がしようとしてることは分かっている筈。損になると分かってて…貴方に何をしたわけでも無いはずなのに。

准はいつもの無表情を辛そうに眉をひそめて崩す。

「…正直言えば分からない。だけど、」

今までのことが全て壊れるとしても、貴方には力を貸してあげたくなる。

真剣な目で、逸らすことが出来なかった。
准は持ってきていた紙の中から数枚渡した。

「仕事はこれだ」
「世話係…?」
「…人気がなくて困っている仕事ですね。単純にポケモンの世話をするだけでいいです。誰も担当がいないので教えてくれる人はいませんが…これぐらいできるでしょう?」
「…ハイ」

いいえと言えないこの威圧感。

「任せる」
「うん…ありがとう、准」

ポンポンと私の頭を撫でた。准が立つと桜色の人が後ろを着いていく。
部屋の入口あたりで桜色の人が振り返った。

「その、桜色の人という呼び方、不愉快です」
「名前教えてもらってないし、」
「…言いましたでしょう、教える名前はないと」
「……」

どうしろと…
…あれ、

「名前自体がない…?」
「無くても困りませんから」

そんなもの、なんだろうか。ただの番号みたいな扱い?

「…あさひ」
「いきなりなんですか」
「決めた。これから勝手に決めた名前で呼ばせてもらう。これからは旭さん」
「…意味不明です。貴方に名付けられる筋合いは「旭」

准の一言で旭さんの言葉は止まった。切り替えのスイッチでも押したのかと疑うくらいに。

「行くぞ」
「はい」

私に目を合わすことなく、真っ直ぐ准を見て部屋を出た。
部屋がしんと静まる。

『いきなり会うとは…災難だったね』
「疲れた…」

仕事はもう少し休んでから。今からは精神ショックで無理です。

『なー、何で名前なんて付けたんだ』
「ついその場の勢いで…それに、」


あの人に会ったのは洞窟とか室内とかいつも太陽の下じゃなくて。
綺麗な桜色の髪は太陽の下でこそ映えると思ったから。

("朝日"に照らされた貴方の髪が見てみたい)


ソレイユ
(はじまり)



「旭」
「…なんですか」
「いい名前」
「……貴方に呼ばれれば」

准に呼ばれても中心を占めるのは嫌悪感で。
でもその中にある小さな感情の名前が分からなくて、

より苛立ちが増した。

140725


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