辿り着いたシオンタウン。まだ日は高い。

『街って意外と人がいねーんだな』
「ここは特別。他はもっと賑わってると思うよ」
『へへーたのしみ』

ポケモンセンターの部屋を取ってから、気になっていたポケモンタワーに行くことにした。途中で見かけた花屋で思いついて、小さな花束を買った。
ポケモンタワーに入っても嫌な空気は感じなかった。話を聞いてみると、数日前に一人の少年がR団を追い払ってくれたとのこと。よかった。

二階に上がると見覚えのある姿があった。

「グリーン」
「華音か」
「どうしたのこんなところで」
「そっちこそ…って花?」
「…お墓参りに」

それ以上は聞かず、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。

「俺は幼馴染を追いかけてきた」
「じゃあ、追い払ってくれたのは…」
「多分幼馴染。よく面倒事に巻き込まれるんだアイツ」

ゲーム通りに話が進んでいる。きっとガラガラは成仏できたんだろう。

「俺はこれからポケモンセンターに行く。帰ったら勝負しようぜ」
「うん、待っててね」

笑えば顔を赤くして、指摘すれば髪をぐしゃぐしゃにされた。解せぬ。
やめたかと思えば、じっと花を見ていた。

「どうかした?」
「花、似合うな」

照れくさそうにはにかんでそんなことを不意打ちで言うので、こっちも顔が熱くなってしまっていたたまれない気持ちになる。見つめ合っているのが辛くて、不意に視線をずらせば、また見覚えのある姿が。
あ、と声が漏れた。

「ご、ごめん、知り合い見かけたから行くね!」
「あ、華音!」

逃げるが勝ちってことで許して下さい。


『逃げられちゃったね、マスター』
「あー…」

座り込んで頭を掻き回す。髪はぐちゃぐちゃだ。
どんなに待っても顔の熱は引かなかった。


一瞬しか見れなかったけど、きっとあの人だ。
あの、彼独特の空気に、流れるように長い銀髪。
私には思い当たる人は一人しかいなかった。


「准さん!」
「…華音?」

足を止め、名前に反応して振り返った。頬にある花の刺青。間違いなく彼だ。

「お久しぶりです」
「……」
「今日は一人なんですね」
「休暇と後処理だからつれてきていない」
「そうですか」
ふと、彼の手にも花束があることに気付いた。私よりも大きい花束だ。

「お墓参りですか?」

何も言わない。多分肯定だ。

「多分、ですがお参り場所は一緒だと思います」

彼の視線を感じたけど、気にせず一緒に行きませんか、と誘ってみた。
何も言わず、歩き出した。これも肯定ということで良いんだろうか。とりあえず後ろをついていく事にした。

『本当に着いていくつもりか』
「うん、ちゃんと話してみたかったし」
『彼R団なんだよ?』
『…R団なのか…絶対危ないだろ!!』
「分かってる。ごめんね二人とも、いい記憶ないでしょ」
『…うん。でも彼は特殊だ』
『変な人、よね。空気とか色んな意味で』
『確かに俺の知ってるR団とは違うけど、』

出会った事のある人なら皆感じている。彼は完全に何か他の団員とは違うのだ。
何故、そんな彼がR団にいるのか気になってしまう。

『知り合いなの』
「前、お月見山でね」
『ふーん。これから僕寝るから話しかけないでね』

霙はまさにゴーマイウェイ。
うるさくしないように肝に銘じて前を向くと、准と目が合った。
敵視というより、探っているような目。

「本当にポケモンと会話できるんだな」
「貴方もでしょう?」
「気付いてるか」
「はい」

歩くスピードを下げ、私の早さに合わせた。

「…生まれつきだ」
「私は後天的です」

この世界に来てから、と言う意味でだけど。
ちゃり、と首にかかっているネックレスがなった。彼の視線はネックレスに移る。

「サファイアのネックレスなんです。昔から持ってて」

無言で左の横髪をかきあげた。彼の耳にも私と同じ輝きの物があった。銀髪にその宝石はとても映えていた。

「おそろい」

一瞬だったけど、確かに彼は笑った。
初めて崩れた彼の表情はとても綺麗で、見惚れてしまう。嬉しくて、私も笑った。


「ここ」

そこは最上階だった。

「奥だ」

先に行く准の後ろに着いていく。彼が止まったところにはお墓と、小さなポケモンがいた。

『うっ…おかあさん…』

カラカラだった。言葉からガラガラの子で間違いない。

「こんにちは」
『ひぃっ!!こここ今度こそお、おばけ!?』
「違うよ」
『うわあああああ!!!』

カラカラが怯えてしまって話ができない。
さてどうしよう。
考えていると、准がカラカラに花を差し出した。

「持ってきた」

准の声にぴくりと反応し、カラカラは恐る恐る顔をあげた。
准を見たカラカラの表情に恐怖はない。逆に嬉しそうだ。

『本当にまた来てくれたんだ!』
「どういう関係?」
『……だ、誰?』
「…知り合い?」

首を傾げられたがそれで間違いはないかな。

「華音だよ。よろしく」
『よ、よろしくお願いします…』

こそこそと准の後ろに隠れてしまった。人見知りらしい。准には心を許してるのがなんとも可愛い。

「迷子だったから保護した」

私の問に対する答えみたい。ということは…R団が来た時に母親に会いたくて入ってきてしまって、准と出会ったのか。それで懐いたと。

『その時、今度一緒にお墓参りしてくれるって言って…本当に会えて嬉しい!』
「約束だったから」

だから、わざわざ下っ端に任せられる後処理をしにもう一度来たんだろう。
やっぱり彼は優しい。

「私も一緒にお参りしてもいいかな。小さい花束だけど…」
『本当…?お母さん、喜ぶと思う』

花を飾って手を合わせた。どうか、天国でも幸せに生きて欲しい。貴方の子供も立派に育っていますよ。

(ありがとう)

何処かから声が聞こえた気がした。横の准も笑っていた。きっと彼にも聞こえたと信じて…


二人でカラカラを送っていくことにした。
懐いてくれたのか、抱き上げても怯えず笑ってくれる。

「着いた」

そこはフジ老人の家。外には既にフジ老人と思わしき人がいた。

『おじいさん、ただいま!』
「おお、カラカラ…貴方は」

准の素性を知っているのか、複雑な顔だった。

「…そちらの方は、見かけない顔で」
「偶然出会った知り合い」
「華音です。ポケモントレーナーをしています」

そうか、とフジ老人は微笑んだ。カラカラを家の中に返すと、フジ老人はカラカラの後ろ姿を見ながら話し出した。

「お二人共知ってるようで」
「…はい」

准は無言だが、フジ老人は肯定と取った。

「正直、ガラガラの死の原因であるR団の貴方にカラカラの事を気にかけられる事は複雑だが、感謝したい。貴方と出会ってからカラカラは変わった。母を無くしても前を向きだしたのです。…ありがとうございます」

フジ老人は深く頭を下げた。何も言わなかったが同じく准も深く頭を下げた。

『え、もう帰っちゃうの?』
「…また来る」
『…華音もまた来てくれる?』
「私もまた来るよ」

近寄ってきたカラカラを二人で撫でる。カラカラは抵抗もせず嬉しそう。

「…もしかして、二人共カラカラの言葉が…」

「秘密、ですよ」


フジ老人やカラカラと別れ、准がポケモンセンターまで送ってくれるというのでお言葉に甘えた。

「来たトレーナー、強かったですか?」
「…部下が戦ったが…いいトレーナーだった」

彼はまっすぐ道を進んでいるようだ。それだけでも知れたならいい。私より先に行ってるから会えないのはしょうがないんだ。

「ここでいいですよ、もうポケモンセンターも近いですし」
「…敬語はいい。多分年も近いだろ」
「…何歳?」
「18」

正直驚いた。20越えてると思ってた。老けてる…いや大人っぽいのか。
言われた通り敬語はのけさせてもらうことにした。

「また会えるといいね」
「…可笑しなことを言うな」

相手はR団。確かに可笑しなことだ。
でも今日で改めて分かった。彼はポケモンに優しいのだ。普通のトレーナーよりも、ずっと。そこに内も外もなかった。

「…じゃあ」

彼はクロバットの空を飛ぶで帰っていった。

「次会うのは意外と近かったりして、」


ポケモンセンターではグリーンが待ち構えていた。勝負を心待ちしてたようだ。



『…R団とも繋がりあるし、変な奴』
『そこが華音のいいとこだろー』
『馬鹿は黙ってて』
『…ごめんなさい』

睨めば簡単に馬鹿は黙った。弱点のタイプである僕には弱いらしい。

『で、知り合いなの彼と。誤魔化し方が不自然過ぎだよ』
『…顔見知り程度だけど。トレーナーには言わないでよ』
『はいはい。
でも華音なら何か感じてそうだけど…』

爽の呟きは聞かないことにした。このトレーナーなら捨てはしないだろうとは出会ってから今までで分かった。でも、

目に入ったネックレスを見た時沸き上がった感情に前とは違う別のものが混じっていることに苛立った。

(嫌いだったのに、)


「霙、バトルしてみないー?」
『…仕方ないからしてあげる』

ああ、めんどくさくてイライラする。


溶けていく
(これ以上は、危ない)
140511


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