長い旅だった。ようやくイワヤマトンネルを抜ける事が出来た。入ったのは朝だった筈なのに太陽は空のてっぺんに上がってしまった。

「どれだけの時間が奪われたことやら…」
『そんなこと言っても仕方が無いよ。街に急ごう』
「はーい」

次の街はシオンタウン、か。
正直言えば怖いイメージが勝つ。だけど、すごく大切な場所だとは思う。

ポケモンタワーは私のいる場所から既に見えていた。
今、ガラガラはどうなっているんだろう。

『早く行こーぜ華音』
「うん」

気になる。街に着いたらフジ老人も探そう。

気持ち早歩きで進んでいたら、どこからかヒューと音が気聞こえた。
なんの音だろうと周りを見回す。

『さっきの音、どこから聞こえてるの』
「何もないけど…」
『上見ろ』

何かピンク色のものが落ちてきているのだ。それも凄いスピードで。
あ、これはぶつかる。

落ちてきたピンク色のものは脳天に当たり、足元にあった何かを踏んづけてまた倒れてしまった。なんかデジャヴだし、最近ドジっこ属性にされている気がするけど、大体はまわりが原因の気がしてきた。

「あー、頭クラクラする」
「だ、大丈夫か華音っ」
「地面には頭打ってないしだいじょーぶだよ」

擬人化してボールから出てきた烈火はすでに泣きそうだ。落ち着くまで撫でていると、誰か話しかけてきた。

『こんにちは、華音。初めましてだね!』

何で名前を知ってるとか聞きたいことはあったけど、その姿を見て驚いて声が出なかった。
落ちてきたのは伝説ポケモンのミュウなのだ。

『そんなに驚かなくてもいいーのに』

映画でよく見た笑い方でクスクス笑う。まだ信じられない。いきなりミュウが現れるなんて。
でも、私は他の世界から来た存在で、少なからず特殊な人間になる。なら私を知っていてもおかしくないのか…?

『まあ、君が特殊だから知ってると言ってもいいけど、他にも理由あったりするんだよ』
「え」
『でもヒミツ!』

口に人差し指を当てて言う。あざとかわいい。ミュウだから許されるよ可愛い…
エスパータイプだから私の心を読むことも容易いんだろう。

『で、コレ何』
『コレ呼びは酷いなー、いちおー伝説なんだよ』
『…伝説ってホイホイその辺飛んでて落ちてきていいのか?』
『さっきのはわざとだよー』

わざとだったんですか、超痛かったんですが。
蘭がぶつけた頭を撫でてくれたので抱き着いていると、地面に何か落ちているのに気付いた。
小さいままのモンスターボールだった。さっきふんだのはコレか。何故、こんなところに。中身は入ってるのかな。

『入ってるみたいだね。なかなか面白そうな子みたい』
「落し物で届けた方がいいかな」
『そうしてもいいけど、相手は落としたの気付いても探してないんだしそのままもらってもいいんじゃない?』

落とした人が探してないって…結果、捨てられたってこと…?でも今となっては忘れて探してないということも、

『そこは想像にお任せ。これも運命。開けてみなよ。相手が拒否しないかぎり開けられるから』
「…うん」

ボールを投げてみれば、すんなりと出てきてくれた。
中に入っていたのは小さなドラゴンポケモンのタッツーだった。

『…ここどこ。あんたたち誰』
「シオンタウンの近くで、私は華音だけど」
『あの辺ね』

見た目とは違い、性格は素っ気ない…というよりクールなのかな。

「どうしてここにいたの」
『知らない』
「トレーナーのことは覚えてない?」
『いたかも覚えてないね』

これは…記憶喪失なんだろうか。過度のストレスで忘れてしまったとか。

『それはどーだろうね』
「何か知ってるの?」
『別にー。何にも知らないよ』

トレーナーを探してあげた方がいいんだろうか。
見ると、タッツーの首にはネックレスが掛かっていた。

「首の、見せてもらっていい?」
『好きにすれば』

丸いガラス玉に、水と雪の様な小さな欠片が入っていた。スノードームに似ている。神秘の雫にしてはデザインが違う。ただのアクセサリーかな。

「これ、誰に貰ったか覚えてない?」
『…さあ、覚えてない』

全く手がかりがない。この子をこれからどうしよう。

『どうするつもりだ』
「この子次第かな…探してほしいと言われれば精一杯探すよ」
『そうなったら長い旅になりそう』
「時間はあるんだし、気長にいこうよ」

仲間と話している間にタッツーにじっと見られていることに気づいた。

「どうしたの?」
『あんたポケモンと話せるんだ、変だね。気持ち悪い』
『黙れ』
「夜大丈夫だよ、気にしてない」

変だし、気持ち悪い力かもしれない。でも、この力のおかげで皆に会えたのだ。どんなに言われようと、この力を嫌にはならない。

『そう思ってもらえると、ちょっと救われる気がするよ』

「…ミュウ、何か言った?」
『なんにもないよー』


(君に真実を告げるのは、まだ早い)


思わせぶりな事を言ったミュウだが、聞いても何を言ったかは答えてくれないだろう。
今は、目の前のタッツーのことを考えよう。

「君はどうしたい?」
『どこにでも連れてってくれるの?』
「君が望むなら」
『今すぐに他の地方でも?』
「旅は中断しちゃうけど、本当に今すぐっていうなら考える」
『置いてけっていったら』
「気になるけど、置いていくよ」
『薄情だね』
「君がそうしろっていったじゃん…」

夜とは違うタイプの毒舌だ。なんというか、一撃一撃が鋭い。夜は一撃の攻撃が強い。どっちにしても痛い。

『ここにいてもする事ないし着いてってあげる。でも好きなようにさせるっていう条件付き』
「ナニ様だよ!」
『生意気な子だね。今度華音傷つけたら手加減しないから覚悟しててね』
「笑顔で怖いこと言わないでよ…
それでいいよ。これからよろしくね」
『うん、よろしく』

取りあえずタッツーが着いてくることは決定した。
丁度仲間が全員出てきていたので私から自己紹介した。…ちょいちょい波乱が起きていたので、少しこれからが心配だ。

『ふーん、全員に名前つけてるんだ』
「仲間の証みたいなもんだよ」
『じゃあ、僕にも頂戴』
「君は…霙、かな」
『霙[ミゾレ]ね…』
「雨と雪の混じったもののことを言うんだよ。そのネックレスみたいでしょ」
『…まあまあいいんじゃない』
『本当生意気ね』


(霙、か)

ネックレスを見て心が痛んだが、気付かないふりをした。


(これぐらいどうってことない)



『いいなー、ボクも名前ほしい!』

さっきまで静かだったミュウが騒ぎ出した。

「伝説に名前つけてもいいの?」
『ボクは気にしないよー。何個名前があってもいいでしょ?ニックネームだよ』
「じゃあ…紫悠」
『紫悠[シユウ]…なんかアジアっぽい』
「やっぱり私の世界知ってるの?」
『ちょっとだけね!気に入ったからこれからはボクのことは紫悠って呼んでね』
「うん」

いいこいいこ、と私の頭を撫でる。ミュウに撫でてもらえるなんて嬉しすぎる。勿論撫で返しさせてもらった。

『じゃあ、名前ももらったし帰ろっかな』
「また会える?」
『また会いに来るよ。これ、お別れの挨拶!』

ちゅっ、とさっきぶつかったところに何かが触れた。紫悠を見れば、いつもみたいに楽しそうに笑ってばいばーい、と言ってポンッと消えた。

「……」
「夜無言でごしごししないで痛い!」

仲間のピリピリとした空気を感じ取ったのでこれ以上何も言えなかった。

『なんか嫉妬深い奴らばっかだね』

ほんと、その通りだと思います。


「(あれ、)」

そういえば、頭の痛みは消えていた。紫悠が消してくれたんだろう。


「(またね、紫悠)」



(必然か、偶然か)
140501


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