イワヤマトンネル前のポケモンセンターにたどり着いた。

今から行くと出る頃には日が暮れてしまうかもしれないので、話し合いで明日の朝に行くことになった。
これからは自由時間で夕ご飯まで時間はまだまだあるので皆好きなように時間を過ごしている。

大きな浴場があると聞いたので旅の疲れをとろうとやってきた。

大きな風呂は久しぶりで、ワクワクしながら上と靴下を脱いだ。見えるのは腕と足のあざ。これはまだいい。問題は足首かな。軽く捻挫してるし、色も変わってる。みんなの前で脱ぐ事はないし、蘭だけ気をつけておけばバレないだろう。

「あー、いい湯…」

このまま傷が無くなればいいのに。なんてことあるわけなく。

「…帰りに薬買って帰ろ」


旅に必要な物ならなんでも揃うとか街から離れてるからこそだよね。ポケモンセンター内にあった薬局によって、その帰りに手当てしてから部屋に戻った。

『おかえり、華音!』
「ただいま烈火」

部屋に残っていた烈火が迎えてくれた。
烈火も風呂に誘ってみたが、炎ポケモンゆえに水が嫌いらしく拒否られた。後で体を拭いてあげよう。

『…華音から変な臭いする』
「…そう?」

ポケモンは鼻が敏感だと思ってもいなかった。

「お湯の臭いじゃない?ここは温泉引いてるって言ってたし」
『そう、なのか?』

ごめんね、嘘ついて。

時間はあるし、しばらく風呂に入ってないだろう烈火の体を拭くことにした。初めは逃げ回っていたが、慣れたら気持ちよくなったのか、じっとして嬉しそうに尻尾が振られている。
この後はブラッシングもしよう。きっと喜ぶ。美味しいご飯も食べさせたい。バイキングで腹いっぱい食わせてやろう。

よし、これぐらいでいいだろう。
ブラッシングの準備を…

『なー華音!』

烈火が上着を引っ張る。思ったより強かったからバランスを崩して烈火側にこけてしまった。その時、捻挫した方と同じ足をうった。流石にこれは痛い。
あげた小さな悲鳴に気付き、烈火は不安げに私を見下げる。

『本当に大丈夫か?』
「うん大丈夫」

烈火の頬を撫でる。瞬きするその目から私の手まで雫が滴った。

『ごめんな。オレ、華音に痛い思いさせてばっか』
「そんなことない。烈火のお陰で私は楽しいよ」

一度溢れた涙は止まる事無く流れる。すくってもすくっても止まらない。

『ほんとは、怪我してるんだろ。これ、薬草の匂いに似てる』
「…バレてたのか」
『でも、華音はそんなふりしなかったから気のせいかと思って、オレのせいなのにっ』
「隠してたのは私の我が儘なの。烈火は、悪くない」

昔からこうだった。大きな怪我でも小さな怪我でも隠すくせがあった。
それは忙しい二人に心配させたくないって気持ちもだったけど、何より彼らにいつも通りでいて欲しいという私の我が儘だった。日常が好きだったんだと思う。
ここだけは昔から酷く自己中なのだ。

だからさ、謝らないで

『華音は、優しすぎるっ』
「そうかなぁ」

自己中の結果が優しさに繋がっているだけ。これは私が優しいにして良いんだろうか。

『オレ、ぜったい華音守れるようになるからっ、だからっ、お願いだから、無理して隠さないでっ』
「…善処します」
『それってぜったいうんって言ってないっ』
「騙されなかったか」
『華音のばかばかばかー!』
「ごめんごめん気を付ける!なるべく気を付けるから!」
『嘘だったら、燃やすからっ』
「なんて物騒」

無意識なことが多いから気を付けないとな、と肝に銘じていると、誰かに抱き締められた。
見たことのない髪色が視線の端に映る。炎のような髪。その前にぐすぐす泣いているので彼しかいないのだが。

「もう、こんなことないように気を付ける。まわりからもぜったい、守るから」

信念のこもった声に、返事の代わりに抱き返した。


部屋の外には四人の人影があった。

「誰か、気付いてたか」

覇剛の言葉に誰も返事はなかった。

「いつもはバカの癖に無駄に隠すのがうまい」
「確かに烈火に乗りたがってたけど、いつものことだと思ってた。足、怪我してたのかな」
「ほんと、大馬鹿よ…」
「なんで言わないんだよ…」

彼女らしい、と言ってしまえばそうだ。
彼ら、彼女のトレーナーはそういう人なのだ。

彼女は、周りだけでなく自分も傷ついている事に気付いていない。


優しい嘘
(優しくても傷ついている)
140501


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