「火の粉だ!」

ガーディが勢いよく吹き出した炎を楽々と避ける。これならいける、余裕の笑みを浮かべた。

「とどめのつつく!」

ガーディの火の粉を避け、小さな体で目にも止まらぬスピードでガーディにつつくを決めた。無防備なところを攻撃されダメージが大きかったのか、ガーディは踏ん張ったが倒れてしまった。


「よし、三勝!グッジョブ覇剛!」
『これぐらい楽勝だ』

駆け寄ってきた覇剛とハイタッチを交わす。抱き上げて欲しいと言われたので要望通り抱き上げ、ジェントルマンからは金をうば…賞金をもらった。失礼しました、と言い部屋を出た。

「いやー、いい金稼ぎの場だ」
『うん、トレーナーあつまってるし』
『相手は金持ちだけ。賞金がいいわ』
『弱くて戦うのが面倒だが』

いきなりの私達の黒い空気に覇剛は混乱していたが。覇剛は未来永劫まっさらでいて下さい。

覇剛と出会って二日目。今日無事に覇剛は退院が出来た。でも全快ではないので無理はしないように、とのこと。バトルは軽く、無茶はしないようにとも釘を刺された。覇剛は見た目によらず、ずっと強かったし、ここでのバトルならいい運動になるだろう。
そして今日はサント・アンヌ号がクチバに来る日でもある。早速乗り、バトルをしていたところだ。グリーンとの約束もある。同じ船にいれば会えるだろう。

船を隅から回っていると、甲板に着いた。船は動いていないが、時折吹いてくる潮風が気持ちいい。

「久しぶりの海だなあ」
『…へえ、これが海』

ボールの中の蘭が感心した声を出す。

『綺麗、ね』

ボールの中だからどんな表情をしているか分からないけど、きっとキラキラした目で海を見ているんだろう。

「海初めて?」
『ええ。住んでいたのは森だったから近くには湖しかなくて』
『僕も似たような感じかな。こんなに広いんだね』
『本物は違うな』
『あ、ポケモンもいる』
「ん?皆初めて?」

全員肯定の返事を返した。夜は無言だったが、無言も肯定だ。
確かに、ポケモンって住処から移動することはないイメージがあるし、知らなくて当たり前か。

「じゃあみんなで海水浴したいね。海じゃなくても川とかプールで」
『楽しそうだね。泳ぎは得意じゃないから水遊びしたいね』
「いーね」

皆となら何をやっても楽しそうだ。なんでもさせてあげたいし、一緒にしたいって思う。

――ああ、幸せだな。


『体ベトベトしてきた』
「あー、潮風の影響だね。ベタベタしたり金属がさびやすくなったりするの」
『…出なくてよかったわ』

泳ぎに行くなら海、以外に確定かな。


船の中に戻ると、見覚えのある人が階段を上がってきていた。どうやら相手はこちらに気付いてないようだ。覇剛を降ろし、階段を上りきった時に横から勢いよく抱きついた。

「隙あり!」
「おわっ!!」
「グリーンお久ー」
「…はぁ…華音か。ビビらせんなよ!」
「ごめんごめん」

私より小さいということで譲歩して階段終わって一拍置いてから飛びついたんだよ?ちゃんとその辺考えてるって…と言っても納得しないんだろうな。

「グリーンもちゃんと約束通り来れたんだね」
「ああ、先にジム戦も済ませてきた」
「うわ、ずるっ」

ゲーム通り順番とかないのか。先にやっとけばよかった…といっても覇剛が心配だから行かなかっただろうけど。

「時間経ったし、またバトルしねぇ?どれぐらい成長したか見てやる」
「いーよ。じゃあ1対1でいい?この子を試してみたいんだ」

私を見上げていた覇剛を抱き上げる。それなら、とグリーンはラッタをボールから出した。
ラッタの尻尾を踏んだというトラウマを思い出したが、思い出してもいいことがないので頭の端に追いやった。

「コラッタ進化したんだね」
「さっきしたばっか。腕試しにちょうどいいだろ」
「そうだね。でも覇剛はそう簡単に負けないよ?
覇剛、お願いね」
『任せろ!』

廊下では周りの邪魔になるかもしれないが、場所がないので隅の方を使わせてもらうことにした。先行はじゃんけんで私からになったので遠慮なくいかせてもらう。

「にどげり!」

素早くラッタに近付き、にどげりをしたが、一発は腹に当たったが、もう一発は掠る程度にしか当たらなかった。

「思ってたより素早いな、ラッタ噛みつけ!」
『ぐあっ!』

逃げるのが一歩遅く、ラッタの牙が覇剛の体に食い込んだ。

「大丈夫覇剛!?抜け出せる?」
『んっ、ギリッギリ…ッ』
『ッ、いって!!』
「ラッタ!?」

ラッタに体を噛みつかれた覇剛だが、体から出した棘をラッタの口に刺し、その一瞬の隙をついて抜け出せた。だが、ダメージはかなりのようで、すこし体がふらついた。早く勝負を決めなければ。

「次で決めろ!必殺前歯だ!」
「毒針!」

間合いを取った覇剛だったが、そんなものものともせずラッタがとびかかり、今度は耳に噛みつかれた。ぐっとその攻撃に耐え、体中から毒針を発射した。近くにいたせいでラッタは全部の針を喰らった。耳から牙が外れる。
両者のにらみ合い。緊張状態が続いた。
覇剛が最後の一発を喰らわせようと踏みだしたとき、ラッタは地面に崩れた。覇剛の今までの攻撃で毒状態になり、体力がじわじわと削れたようだ。

「よっし、おめでとう覇剛!そしてごめんこんなに無理させるつもりなかったんだけど…」
『気にすんな。確かに痛かったけど、久しぶりに思いっきり動けて楽しかったぜ』
「ありがとう。ゆっくり休んでね」

これ以上無理をさせないように覇剛をボールに戻した。

「くそ、今回は行けると思ったのに」
「こっちの粘り勝ちかな。でも最後攻撃されてたら勝負わかんなかった。
ラッタもうまく毒になってくれてよかった」
「あんなに毒針刺されて毒にならないわけないだろ…」

毒針だけじゃなく、特性の毒のトゲで確率は上がってたし、毒状態になるとは踏んでいた。にどげりが思ったより当たんなくて試合が伸びそうになったときはひやひやしたけど…

「あー、アイツにも一度も勝てなくて華音にも負け続けるとか…」
「ん?アイツ?」
「…話しただろ、幼馴染いるって。そいつ。そいつにも会うたび試合してるのに勝てた試しがない」

他には勝てるからお前ら強すぎんだよ、とグリーンは深い溜め息をついた。
グリーンの幼馴染みと言われて思いつく人は一人しかいないけど、この機会だし確認しておきたい。

「…その人って、」

ピンポンパンポーン

放送に私の言葉は消されてしまった。どうやら知らないうちに出港の時間が迫っていたようだ。

「さっきなんか言った?」
「んー、いいやまた今度聞く」
「そう?じゃあ急いでるから先に行くぜ」
「うん、またね」

グリーンと別れ、まだ出港の時間まで船を回らせてもらうことにした。

頭に浮かんだあの人のことは置いとこう。今度もあるんだし。
でも、会ってみたいな。伝説と言われる前のあの人に。

少女が彼に出会うのは、もっと後の話――


世界は広い
(でも、きっと、出会える)
140213


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