無双状態だったゴールデンブリッジを越え、かなり奥の方までたどり着いた。
この世界がゲーム通りならあの人がいるはず。

『………』
「…どしたの、機嫌悪いね」
『しらばっくれてんじゃねえ』

夜の言うとおり、不機嫌な理由を私はわかっている。だが、それはしょうがないのだ。

「……なあ、コイツに俺睨ませるのやめろよ」

先程戦ったグリーンが同じ方向ということでついてきたのだ。特に問題はないだろうと思ってOKしたけど…想像以上に仲間の態度が悪い。少しは申し訳ないと思ってるけど、グリーンがしばらく何も言わなかったので気にせずにいたが…もう流石に耐えきれなかったようだ。

「ほら、夜」
『……』

ふい、と顔を背けて先に行ってしまった。ああ、不本意だけど後で詫びを入れないとな。
これで一番酷い態度をしていた者はいなくなった。…後の二人の嫌々オーラも酷かったが、しぶしぶ了解してくれた。それでも多少の威圧感があるけどそれは大目に見よう。

「この先に何があんの」
「…知らずに着いてきたんだね」
「…悪いか」
「悪くはないと思うよ。私の記憶ではこの先に科学者?がいるはずなんだ」
「こんなところに?」
「確かにそうだけど、すごい発明をした人で…」

『ここであってんのか』

夜の声で前を向くと不自然に一軒の家が建っていた。場所的にここで間違いないだろう。
皆をボールに戻し、ノックをしてゆっくりと扉を開けた。

「お邪魔しま…」
「ん?」

手を離した扉は風の力で元通りに閉まった。言葉が出ないってこういうことを言うんだろうな。

「…さっきのってピッピ…」
「あんな人面ピッピ見たことない」
『その前にあれは本当にピッピかも怪しいね』

爽はクスクス笑っているが笑い事ではない。あれはホラーの部類に入るのでは…
覚悟を決め、もう一度扉を開けた。

「ちょ、酷ない!?いきなり閉めるとか!!」
「え…すみません」
「思ったよりドライな返事やな」

人間の様に喋るピッピにグリーンは固まっているし、皆も動揺している。一人、爽はにこにこ笑っているけど。そうだ、このイベントを忘れていた。

「ま、それは置いといて…どっちでもええ、わいの頼みを聞いてくれ!」

「…こんなやつ信用していいのか」
「まあそんなこと言わず話ぐらい…」
『でも、聞いても利益ないでしょう。別にほっといても害はないし』
「心臓には悪いけどね」

「目の前で内緒話、聞こえるトーンで悪口もどきとか!泣くで!!」

ひそひそ話していると相手にも聞こえたらしい。言葉だけかと思ったが、本当に言葉通り泣き出してしまった。言っちゃ悪いが面倒な大人だ。

『ほっとけ』
「目の前で泣かれると…ねえ」
「でも何も得ないし」

「…しゃあない!世の中ギブアンドテイクや、うちにある欲しいもんやるわ!」
「よし、グリーンやろう」

現金な奴やな…聞こえたが気にしない。人間そんなもんだよ。

「紹介遅れたな。わいはマサキ、よろしゅう」
「!、預かりシステム、通信システムを作ったあのマサキ!?」
「よう知っとるな!あっとるで!」

グリーンは目をキラキラと輝かせる。こういうところを見ると、研究者の血が入っていることを実感する。

「そうそうなんでこんな姿になってるかというとちょっとした事故でな…あの装置にうっかり入ってしまってピッピと合体してもうて…もう一回装置の中に入って電源入れれば戻ると思うんやけど」
「それは災難というか自業自得というか…」
「さっきから冷とうない!?」

通常運転ということだけは言っておきたい。

間もなく実験?は始まった。マサキが装置に入ってパソコンで起動するという簡単なもの。グリーンはあまり得意ではないようなのでそれは私がやることになった。

「…よし、準備できたぜ」
「ほーい。じゃ、起動っと」

ゴゴゴゴゴと機械音がなった。装置がガタガタと揺れる。…これは大丈夫なのだろうか。隣のグリーンも不安そうな顔をしている。
ピタッと音は止み、ウィーンと扉が開いた。

「あー、助かったわ」
「成功してよかったですね」
「ほんま有難う!感謝感謝や!」

私とグリーンの両手を掴みぶんぶん上下に振る。かなり嬉しいんだろうな…

『あ!ごしゅじん、もどったの?』

ちょこちょこと小さなポケモンが部屋の奥からやってきた。これは!!!!

「お、イーブイ心配かけたなぁ」
「イーブイ…!!」
「…目が怖いぜ」

何かのトラウマを思い出したのか、夜のボールが揺れた気がした。
そういえばマサキのお気に入りはイーブイだとか聞いたことがある。子供なのか、初めて会った時の夜より二回り程小さい。あれなんなの何でも動物の赤ちゃんは可愛いとかいうそれか!

「あ、あの、撫でさせてもらってもいいですか?」
「ええよー、でも恥ずかしがり屋やき逃げるかも…」

しゃがんでイーブイを呼ぶと、恐る恐ると近づく。すんすんと私の匂いを嗅ぐ。いいにおいするね!、とすり寄ってきた。もふもふ。嗚呼、ポケモンには天使ばかりだ。幸せ。
好かれ易い体質なんやなあ、マサキは笑った。あまりゲームでは見ることなかったけど彼もイケメンだな。

「あ、私もイーブイ持っていましたよ。今は進化しています」
「ほんま!?見せてもらってもええ?」
「いいですよ」

夜をボールから出す。出された理由が気に入らないそうで、とても不機嫌だがマサキは気にしていないようだ。

「ブラッキーかー。こっちじゃあんまり見えんから新鮮やわー毛並みもええなー、でも警戒酷いなあ」
「そういう子で…」
『……ふん』

もう我慢できなくなったのか、隣に来て座った。不機嫌オーラが酷い。ちょっかい出したらこっちがやられるぞ…苛立ちが落ち着くまでほっておこう。

「…あのブラッキー気難しそうなのに、めっちゃ懐いとるな」
「傍から見れば結構わかりやすいですよね」

二人の会話は、イーブイと遊ぶのに夢中な私には聞こえなかった。

両手におさまるこの感じがたまらない。貰っていきたいぐらいだ。

「マスコットとしてほしいなあ、こんな可愛い子バトルに出せないコンテストに出したいくらいだよ勿論可愛さ部門で夜はかっこよさ部門かな」
『出ない』
「…まあその前にコンテストはカントーにないんだけどね」
『こんてすとっておいしい?』
「食べ物じゃないよー。あ、でもポロックは美味しそうだったな」
『ぽろっく?』
「きのみのお菓子でね、」

「いつまで話してんの」
「おわっ、」

後ろからのしかかられた。声からしてグリーンだ。若いから重さはそれほどなかったけどびっくりした。

「他の地方の話しても分かんないだろ」
「いやつい。いきなり来ないでよびっくりする」
「はいはい」

適当な返事だな…イーブイは何故か喜んでいるからもういい事にしよう。

「はいこれ」
「チケット?」

目の前に出されたチケットを受け取った。船が写っている。これはもしや!!

「サント・アンヌ号のチケット。いらないからってもらった」
「おお…豪華客船!!」
「マサキさんもそんなこと言ってたけどそんないいもんなの?」
「私は楽しみ!」

本当は何回か豪華客船とやらは親の付き合いで乗ったことはある。でもポケモンのいるこちらの世界の海は見え方が違うんだろうな。楽しみだ。

「ふーん…じゃ、オレも行く」
「クチバに来る日は三日後だし、余裕で行けるね。向こうで会えるといいね」
「…だな。今度は負けねえぜ」

グリーンが背中からのいたのでいい頃合いだし、そろそろお暇しよう。
名残惜しいけど、イーブイを地面に降ろして立ち上がる。

「マサキさん、色々有難うございました」
「そんなご丁寧にせんでも…こっちは貰ってくれてうれしいし、イーブイもよろこんどるし」
『おねーちゃん、またきてね!』
「そや、名前は?」
「華音といいます」
「華音かー、ええ名前や!そんな堅苦しくせんでもええんに。近くに来たらまた遊びにきてや」
「はいっ」

マサキさんはポンポンと私の頭を撫でてくれた。年上の人だからだろうか、何か落ち着いた。

マサキさんの家から出て、グリーンはすぐジム戦に向かうようだったので別れた。私はせっかくここまできたので寄り道をしていこうと思う。

「それで、どこに行くの?」
「ん?近くに観光スポット…と言うより、デートスポットがあるみたいだから気になって」

先程話しかけてきた爽を含め、仲間全員が擬人化して外を歩いている。
私の発言にみんな驚いたらしい。全員の視線を感じる。

「…意外?」
「そういうのあんまり興味ないと思っていたわ」
「なくはないよー、するより人の話聞く方が好きだけど」
「それは同感ね」

「…いきなり女子の会話されるとは入れなくなるんだけど」
「あら、ごめん?」

夜は会話に入らず、興味なさそうに隣を歩いていた。

そう遠い場所ではなかったのか、話しているうちに辿り着いた。運がいいのか、あまり人もいない。

「今度は迷わず着けたな」
「着いて一言目がそれは冷たくない?」

でも、私が迷子になって直接迷惑が掛かっているのは主に夜だからしょうがないか…

「いい眺めだね」
「そうだね、自然も綺麗だし」

座って周りを眺めている。草タイプの爽には嬉しい場所だろう。
湖を眺めていると、後ろから蘭がやってきた。

「どうしたの蘭?」
「さっきの続きしようと思って」
「えー…何もないから聞いても面白くないよ?」
「いいから、聞かせて」
「…そういう女子トークは二人きりの時にしてよ」

後ろの爽が話を聞いて苦笑い。まあそりゃそうだろうね。

「気にならないの?」
「気にならなくはないけど…聞いてもいいの?」
「別にいいよ。そのかわり面白い話じゃないよ」

そしてなぜか私の恋愛話が始まった。夜も興味ないだろうに近くにいるので聞く羽目になっているが、気にしない。

「初恋はいつなの?」
「いきなりストレートだな…記憶にある範囲ではしてないかな」
「一度も?」
「うん。勿論付き合ったこともないよ。いつも敬語使ってたから周りも距離感じてただろうし」
「学校に一人はいる高嶺の花のお嬢様タイプって感じね」
「蘭…なんでそんな言葉知ってるの…まあそんな感じ…そこまで可愛くはないからもててなかったけど」
「…自分を見た目の良さで行くとどれくらい?」
「よくて中の上?」

「…これは過小評価だね」
「上はいってるわよ、贔屓目で見ても」

「あの、小さい声で言われると聞こえないんだけど」
「気にするな」

蘭と爽のひそひそ話は終わり、話は戻る。

「じゃあ、気になる人とか?」
「その前に友達いなかったからなぁ」
「意外に寂しい青春送っていたのね…」
「失礼な…と言いたいけど事実だしな…」

帰りは一人だったし。たまに迎えは来たけど。クラスでは事務的な事しか話さないし。休みも家でゲームだし。先生も気を使っていたし、自覚はしている。

「仲がいい人くらいいないの?」
「家族ぐらいしか…ああ、でも使用人さんとは仲良かったよ」
「…本当にお金持ちだったんだね」
「でも、一人だけだよ。住み込みのホームヘルパーみたいな感じ。何故かいつも執事服だったけど」
「…言ったら悪いけど変な人だね」
「そうかもね。でも料理は美味しいし、優しいし、何か太陽みたいな人なんだ。名前も太陽に向かうって書いて陽向(ヒナタ)だし」
「へぇ…華音の初恋はその人なのかもしれないわね」
「うーん、年は離れているから親とか兄弟って感じだけど…」

でも、否定はできない。子供の頃はずっと支えだった。本当に優しかったから甘えてばかりだった。成長するうちに父の思いも少しずつ分かってましにはなっていたけど…
どうなんだろう。もう今となっては分からない。

「つまらない話だったでしょ?ジムが着くころには日が暮れるかもしれないから帰ろうか」

はーい、という二人の声を合図に立ち上がり、振り返った。すると、夜と目が合った。ずっと見ていたのだろうか。

「…なに?」
「…帰りたいと思ったか?」

ああ、意識してなかったけど夜だけは私が異世界から来たことを知っているんだ。いろいろ考えさせてしまったかもしれない。

「正直親と陽向さんには会いたいと思うよ。でも、こっちの世界は楽しいし夜も爽も蘭もいる。だから帰らないよ、私は」

行き来できる方法があったら帰ってるかもね、とふざけて私は笑った。

「そうか」

立ち上がった夜は私の頭を一撫でして、先に行ってしまった。
向こうの世界と何も変わらない空を見上げて思う。


遠いところにいるであろう二人に
(元気にしていますか?)(私は元気です)
131117


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