「もうお昼だし、ご飯にしようか」

隣を歩いていた二人の足が止まった。

「僕お腹空いてないしいいよ」
「ポケモンセンターの方が安上がりだろ我慢だ」
「もっともな理由言ってるけど…そんなに私の手料理を食べたくないのか」
「「………」」

無言。言い訳ぐらいしてよ。爽は申し訳なさそうに目を合わせない。

「ちょっと、勇気が無くて」
「…お前本当にしたことあるのか、料理」
「うん。ほぼ手伝い付きだけど」
「「………」」

二人の不安度が増したようだ。心なしか顔色が悪い。

「…じゃあ簡単なサンドイッチにするから!切るだけ!なら食べれるでしょ」
「…まずかったら」
「…責任を持って食べます」

私の必至のお願いに二人はやっと折れた。近くの川でランチをすることに。
二人に思い知らせてやる…使用人さん直伝プラスお墨付きのこの料理の腕を…!

簡単なものだったのでそれほど時間はかからなかった。サンドイッチだけでは物足りなかったのでスープを足した二品だ。

「見た目は普通か」
「…これ初めて見るけど、なんか美味しそう」
「冷めないうちに食べてね」
「「…いただきます」」

皿に乗ったサンドイッチを夜は恐る恐る、爽は見た目で警戒が解けたのか戸惑う事無く食べた。

「…普通に食える」
「そこは美味しいと言ってよ」
「…美味しい。これ本当に作ったの?」
「作るとこ見てたでしょ?」

目をキラキラさせる爽。よかった。それなりに美味しいようだ。私も出来たてのサンドイッチを一口かじった。うん、美味しい。夜は何も言わないが、食べてくれているのでそれなりに美味しいのだろう。

「これは何?」
「それはスープで…ポトフちっくに作ったの」
「顔に似合わずできるんだな」
「……褒め言葉でも刺さるよその言葉」

私の発言に知らんぷりしながら、夜は完食した。まあまあ食えた、という褒め言葉か分かりにくい感想をくれた。
爽はポトフもどきが気に入ったようで、ゆっくり味わいながら食べている。

「すごく美味しい。また今度作ってね」
「お金に余裕があったらいくらでも作ってあげるよ。私も食べ終わったし…デザート持ってくるね」

先に果物を川で冷やしておいた。切って食べるだけでも十分美味しいだろう。
果物を回収して二人の元に向かうと、近くで草むらが揺れる音がした。寄り道して好奇心で近付く。音がやんだ。何事かと覗き込んだとき、とび出してきた何かと私の頭が激突した。

「ッ〜〜――――!!!」

ゴチン、と痛そうな音が鳴った。実際に痛い。いきなりのことに声も出なかった。頭をさすっていると、音に気付いた夜と爽が来た。

「…大丈夫か」
「すごい音したよ…」
「…涙出るぐらい痛かったけど、まあ大丈夫…デザートも無事です」

そう言うと夜には舌打ちして睨まれ、爽には溜め息をつかれた。何か気に障ることを言っただろうか。

「…この子は気絶しちゃったみたいだね」
「見事な石頭だな」
「も、申し訳ない…」
「華音もこの子も頭冷やさないとね、タオル水で濡らしてくるよ」
「あ、ならこの子の手当てもお願い。…だいぶ怪我してるから」

倒れているポケモンは私とのぶつかった傷だけでなく、たくさんの切り傷や擦り傷があった。体も汚れている。特に手の汚れは酷い。…この子は何から逃げてきたのだろうか。

手当も終わり、後は目覚めるのを待つだけ。頭を冷やしながら、三人でデザートを食べていた。

「あの子…シンオウのポケモンだね」
「爽はそっち出身だから知ってるか」

疲れていたのだろう。茶色いポケモン…ミミロルはブランケットの上でぐっすり眠っている。

「…ただ、僕の知ってるミミロルと色が違うけど…」
「…色違いか」

色違いの存在を夜は知っているのか、とぼんやり考えた。私の知っているミミロルは茶色く、ふわふわの毛もクリーム色だ。この子は焦げ茶色にピンク色の毛だ。イチゴチョコカラーだな、美味しそう。不意に目が合った爽に「空気、読んでね?」とにこっと笑われた。私の手持ちは読心術が身に付き、怖く育つ様になってるのか。
ミミロルの体がピクリと揺れた。声で起こしてしまっただろうか。まだ目が覚めきっていないのか、ボーっとしている。頭に当てたタオルを置き、ミミロルに近付く。

「大丈夫?体痛くない?」

声に反応してミミロルは目が覚めた。途端、飛び上がり距離を取り威嚇した。これはかなり警戒されているなぁ。試しに少し近づこうとすると、『近づくなっ!!』と言われ警戒を強めた。

「なかなかの警戒だな」
「…人間が嫌いなんだろうね」

私の言葉に爽は苦笑いした。前の自分を思い出しているんだろう。
どうしよう、と考えていると後ろの夜が動き出した。ミミロルの意識が夜に移った。

『来るな!!』
「手当してもらったのにその態度か」
『……ッ』

夜の言葉に詰まったが、ミミロルの勢いは止まらない。

『そうしておいて捕まえるのが目的なんでしょう!!もう同じ手には騙されないわ!!』

その言葉だけでも分かった。この子がどれだけ苦労してきたか。止める爽を尻目にミミロルに向かう。夜より前に出ると私に気付き、威嚇の標的が変わった。

『近づくなって言ってるでしょ!!』

冷凍ビームが寸でのところを通り、目の前の地面が凍った。当てる気はなかっただろうが、当たったと想像するだけでひやひやする。ブラッキーに戻った夜が前に出た。

「ありがとう」
『…気にするな。どうするつもりだ』
「ちょっと、話がしたくて」

私がポケモンと会話したことに驚いてはいたが、それだけで警戒が解けるわけでは無い。今すぐに攻撃しそうな勢いで私を見ている。

「そんなにまわり全部警戒して…疲れない?」
『自分以外は敵よ』

多分、人間には珍しいから狙われ、ポケモンからは避けられ、居場所はどこにもなかったんだろう。一人でいるしかなかった。

「ねえ、私と一緒に来ない?」

この言葉にはミミロルだけでなく夜も、後ろの爽も驚いたようだった。

『いきなり、何、言ってるの?』
「言葉の通りの意味だけど」
『…、嫌よ。特に人間には着いていきたくない』
「もう警戒するのも疲れたでしょ。野生でいたっていつかは捕まるだけだし、それなら私と一緒にいた方が安全だと思うんだ。バトルしなくてもいいし、ボールに入っていなくてもいい。自由にしていいよ。なかなかのいい条件だと思うんだけど…どうかな」

しゃがんでミミロルに手を伸ばした。ミミロルは威嚇するのも忘れて目を見開いて私を見ている。

「…うーん。勿論三食もつくよ。ふっかふかの寝床も…あ!今なら賑やかな仲間つき!それでタダ!お得だよ!」
『どこの通販だ』
「あーなら、この余ったおやつの果物つき!それでもお値段変わらず!どうだ!」
「それは残り物押しつけてるだけだよ」

最後はふざけてしまったが、後はミミロルの返事を待つだけだ。
『…何で、そこまで言って連れて行こうとするの?』

ギリギリ聞こえるような小さな声だった。

「ほっとけないから、かな」

そう。単純にほっておけない。このまま放置してたらいつか本当に捕まってしまうから。誰も信じられないままになってしまうから。目の前で苦しんでいる人を見たらほっておけないし、後悔したくないから。私はミミロルを誘った。

『…分かった。着いていく』

ミミロルは近づいた。私の手を触れてはくれなかったけど、目を真っ直ぐ見てくれた。

「ありがとう」

両手でミミロルを抱き上げた。抵抗されるかと思ったが、何もしなかったので好きにさせてもらった。

「君は女の子であってる?」
『…そうよ』
「なら、蘭[ラン]にしよう」
『…なにそれ』
「名前。無いと呼びにくいでしょ」
『勝手に、すれば?』

なら勝手にさせてもらおう。ミミロルのふわふわ感を味わうように抱きしめた。あー、ふわふわしていて温かい。
来てくれて、良かった。


アタシに名前を付けた後、彼女は頬ずりするように抱きしめた。視界の端に映った仲間であろう二人も呆れた顔で彼女を見ていた。この短時間でこの人間がどんな人間か分かった気がする。

『(元気で馬鹿で煩くておせっかいで…優しくて、温かい)』

生き物って、人間って温かかったということを思い出して、少し、涙が出た。


一人は寂しい
(少しずつ、溶けていく)
130823


prev next

[back]


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -