ポケモンセンターに帰って来た。さっき来た時に部屋を取っているので部屋の心配はない。戦いで疲れているだろうから、初めに回復を頼むことにした。

「ジョーイさんお願いします」
「はい、お任せ下さい。…ですが、今急患があって混んでいて…少々時間が掛かるかもしれません」
「構いませんよ」

ジョーイさんも忙しいだろうし、文句は言えない。二人は暇だろうが耐えてもらおう。

「あの、風梨さんでしたよね…?」
「あれ、どうして名前を…」
「今日来られて人の中で印象的だったので覚えていたんです」

―私のことをとても気にかけてくれましたから…
ジョーイさんはいつもの優しい微笑みで、頬を染めながら微笑んだ。…可愛いなぁ。印象的って無意識に変な行動したのかと思ったけどこの笑顔でそんな考えは飛んだ。

「良ければ回復が終わったらお届けしましょうか?」
「え…でも、ジョーイさんも忙しいのでは…」
「これぐらい構いませんよ。ここに来たということはジム戦もしてきたのでしょう。ゆっくり休んでください」
「…では…お言葉に甘えます」

簡単にメモをした紙とボールをトレイに置いて、それをラッキーに渡した。お礼を言うと微笑んでくれた。ジョーイさんはホント女神のようだ。…少しタケシ化したかもしれないがしょうがない。

部屋に入り、服を脱ぐことなくベッドに倒れた。二人がこの光景を見たら怒られそうだ。ふわふわの布団を堪能した後、仰向けになり、天井を眺める。部屋の中には静かで、聞こえるのも時計の針の音ぐらい。外もこの時間なのであまり声は聞こえない。
…久しぶりに一人になった気がする。昔から何故か一人が嫌いだ。子供の頃は特に酷くて、使用人さんのベッドによく潜り込んでいた。たまにお父様のベッドにも潜ってた気がする。最近はマシになって、一人も大丈夫になっていたけど…今日はすごく怖い。あの、二人との時間が楽しくてしょうがないからよりそう感じてしまうのか、…もしこれが夢で覚めたら終わってしまうと思ってしまって二人が恋しいのか。
疲れていたのかまぶたが重くなったので、そのまま自然に任せ、私は意識を離した。


気付けば僕は部屋の中に運ばれていた。待ち時間が退屈で寝ていたのだろう。隣の夜はまだ寝ていた。
部屋を見ると、ジョーイさんが寝てしまった華音に布団を掛けてくれていた。言葉は届かないから、心の中で有難うと感謝し、部屋を出ていくのを見守った。
ボールを出て、華音の様子をうかがう。壊れないようにそっとベッドに手を掛け顔を覗いた。寝ている華音の顔は想像と違った。

『…泣いてる…?』

いや、涙は出ていない。でもそう見えた。とても…華音が消えそうな気がして…不安になった。存在を確かめたくて無理を承知でベッドの上に乗り華音に近付いた。あたたかい。ちゃんと華音はここにいる。それと同時に思った。
なんでポケモンなんだろう。人間であれば、華音を抱きしめることも出来た。気軽に視線を気にせず外を歩くことも出来ただろう。もっと守れるんだろう。もし、華音がポケモンと話せる能力がなければ、会話することのできなかったのだ。ぞっとした。
人間嫌いの僕が人間になりたいんだなんて、誰かが聞いたら笑うだろう。でもそれでも僕は願う。

―もっと彼女と共にいるために…"人間"になりたいと――

『おやすみ、華音』


長く眠っていた。目を開ければ、そこはもう部屋だった。隣を見る。爽は先に出て行ったようだ。
俺も出て、部屋を見回す。二人を探すと、二人ともベッドで寝ていた。…アイツは自分の大きさを理解しているのだろうか。下手したらベッド壊れるぞ。
少し様子を見ようとベッドに上って、驚いた。コイツがこんなに悲しそうな顔を見るのが初めてだった。それに…寂しそうだった。今思い返せば、一度もコイツはこんな寂しそうな身振りを見せたことがなかった。どんな時もコイツは明るかった。眩しいほどに。そんなコイツを何がこんな顔をさせるようになったのか。一人ということにどんなトラウマがあるのか。そうさせた存在に苛立ちを感じた。そしてコイツが知らないところで悲しんだことも、自分が知らないこいつがいることに憤りを感じる。…俺はこんなに独占欲が強かっただろうか。俺はどれだけコイツにかき乱されているのだろうか。でもコイツにならしょうがない。と思う自分もいる。
隣に座り、顔に掛かった髪をよける。自分には珍しく優しい手だった。

『…いっそ、人間だったら楽だったかもしれない』

そんな自分らしくない言葉が、口から漏れた。
人間であれば、コイツと同じ存在であれば、ずっと――でもそれではコイツを戦い面では守ってやれない。でも、夢ぐらいみたい。

―コイツを守るために。…そばにいるために…"人間"になりたいと――

…こんな風に考えるとは。本当に、俺らしくない。今日はここで寝よう。ベッドが壊れれば、このトレーナーが払えばいい。

『おやすみ…華音』


強く願えば、必ず
130812


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