ある夢を見た。
並んで歩いている三人の家族がいた。
子供は母親と手をつないで嬉しそうな顔をしていた。
母親は温かい眼差しで子供を見ていた。
父親はそんな二人を微笑ましく見ていた。
思わず笑みの零れる幸せそうな家庭だった。
クスリ、と笑うと家族たちが振り向いた――

―夢から覚める。


静かな部屋の中に時計の針の音が鳴り響く。針は午前の6時を指していた。
外からポッポーと鳥の鳴き声がする。朝から雀ではなく鳩が鳴くのは珍しいなとまだ覚めきってはいない頭の片隅で考える。ボーッと部屋を眺めるうちに、ゆっくりと頭が冴えだした。
…夢を見た、気がする。何だろうよく思い出せない。少し懐かしい気がしたけど、所詮は夢だ。気のせいだろう。
確か今日は火曜…学校か。早く起きないと使用人さんが起こしに来る。それまでには起きたいな…でもベッドからは出たくない…もう少し寝転んでいよう。

布団に包まり、寝返りを打つ。下から『ぐっ』『うぎゃっ』と二つの苦しそうな声が聞こえた。ああ、一瞬で何を潰したか分かってしまった。寝ぼけていたからで許されないな、これは。
起き上がり、恐る恐る今まで寝ていたところを見る。そこにはイーブイとナエトル―改め、ブイと爽が潰れていた。
昨日はこの世界に飛ばされ、ブイに出会い、オーキド博士に連れられマサラに辿り着き、そこで爽に出会った。その後、オーキド博士に泊めてもらったんだ。みんなで仲良く寝たいからと、私が乗り気な爽と嫌がるブイを一緒に隣に寝かせて、満足した私はそのまま寝た。…で、朝にはそのことをすっかり忘れて二人を潰してしまったと…これは弁解できない。
本当にポケモン世界にいるんだな。ポケモンがいる以外は似ているところが多いからか、実感があまりない。

『び、びっくりしたー…』
『…テメェ…』
「いやごめんなさい悪気はなかったんです」

瞬時に土下座をして謝る。目は怖くて合わせられない。

『…それで許されると思ってんのか』
「誠意を込めて謝れば希望はあるかなと、」
『俺がそれぐらいで許すと思うか…?』

いえ、思いません。ブイが起き上がり、私を見上げる。寝起きで機嫌が悪いのが相まって目が据わってらっしゃる。

『覚悟、出来てるよなぁ…?』

ブイの尻尾がギラリと銀色に光る。昨日のアイアンテールを思い出し、冷や汗が溢れた。それはいけないよブイ君。私死んじゃう。爽が止めようとするが、聞く耳を持たない。ああ、どうしよう誰か助けて。
そんなとき、扉が開いた。

「…何やってんのお前ら」

開けたのはグリーンだった。この光景を不思議そうに見ている。ブイは興醒めしたのか、溜め息をついて技を止めた。

「…メシアと呼んでいいですか」
「はぁ?」

心底意味が分からなそうに眉をひそめた。うんごめんね言いたかっただけだから。

「ホント助かったよ有難う!何か用があってきたの?」
「起こしに来た。けど…思ったより寝起き良いな」
「朝は得意な方だよ。6時には自然と起きるし」
「見た目通りなのか違うのかが良くわからないな、お前」
「…傷つくぞそれは」

掛け布団をたたんで立ち上がる。爽をベッドから抱き上げて降ろした。ブイには尻尾ではたかれ拒否された。ちぇ…

「もうすぐで飯出来るってさ」
「ほーい」
「後言い忘れてた。食い終わったらバトルな」
「決定事項なの」
「どうせ暇だろ」

じゃ、下で待ってるとグリーンは返事を聞かずに出て行った。はいはいどうせ暇ですよー、失礼だな。でもバトルはこの世界に来て一度もしたことがない。楽しみだ。
呼ばれているんだった。早く支度をしなければ。服を着替え、洗面台へ向かう。…どこに行くのか気になってついてくる二人が親鳥についてくる雛のようでとても可愛いです。

「いつも通りの二つ結びで…」
『いきなり黙ってどうしたの?』
「私の髪って何色?」
『え?うーん、青色…よりは濃いし…夜空の色かなぁ』
「目は?」
『水色!透き通っててキレイ!』

鏡を見てびっくり、元々色素の薄かった茶色の髪と目はあら不思議、髪は藍色に目は水色へと変化していた。驚きすぎて冷静になった。

『出会って時からそうだった』
「へー…」

今まで気づかなかった自分って…もう忘れよう。慣れた手つきで二つに結んでリビングに向かった。
正直言おう。ナナミさんのご飯はかなりおいしかった。シンプルだけどそれがいい。サラダのドレッシングは手作りだそうなのでレシピを覚えようと思う。ナナミさんにお礼を言い、先に食事を終えたグリーンを追って外に出る。

「待ってたぜ」
「その仁王立ちいつからしてたの…」
『馬鹿だな』

仁王立ちで待っていたグリーンの隣にはフシギダネとポッポもいた。君たち注意しようよ。自分がするのは良いけど、相手の変な行動見ると恥ずかしくなるのは私だけかな…

「使用ポケモンは2匹!試合ごとに交代だ」
「おっけー。バトル中の交代もなし?」
「ああ。じゃあこっちから行くぞ!行け、ポッポ!」
『おまかせあれ!』

グリーンの一番手はポッポ。あの時撫でたポッポも可愛いがこのポッポも可愛い。後でもふもふさせてもらおう。

『くだらないことは良いから早くこっちも決めろ』
「ああ、ごめん。…爽、頼める?」
『僕?』
「うん。そうは草タイプたがら飛行は弱点だけど…草タイプ同士も相性よくないからね。フシギダネの方がレベル高いだろうから、そちらはブイにお任せします」
『意外と考えてるんだな』
「ホント失礼だなこの子…きつい戦いになるかもしれないけど…頼める?」
『うん、頑張るよ!』

爽が前に出て、ポッポと対面する。

「確かシンオウの…草タイプだけどいいのか」
「大丈夫」
「そ。先行は?」
「そっちからで」
「余裕ぶりやがって…行くぜポッポ、体当たり!」
「爽、避けて!」

空から体当たりをしてくるポッポを、危ういながらも攻撃を避けた。爽は草タイプではあるが、ポッポの攻撃を避けられるほどの素早さがあるようだ。なら…

「ちっ思ってたよりすばしっこいなっ。風おこし!」
「かわして後ろに!」
「なっ、早!!」
「体当たり!」

グリーンが爽の速さに怯んだ隙に風おこし後で無防備なポッポの背中に体当たりを喰らわせた。もろに攻撃を喰らったポッポは地面に叩きつけられた。軽い脳震とうを起こしたポッポはうまく立ち上がれず、身動きが取れない。

「立つんだポッポ!!」
「吸い取る!思いっきりやっちゃって!」
『りょーかい!』

ポッポは体力を吸い取られながらも抵抗しようと頑張ったがそれでさらに体力を消耗してしまい、戦闘不能となった。

『やった!やった、初めてでも勝てたよ!華音のおかげだよ有難う!』
「もー可愛いなぁ。大したことはできてないけど、どういたしまして。爽、思ったより早くてびっくりした」
『そんなこと言われたの初めて!嬉しいよ』

まだ興奮さめていない爽を褒めながら落ち着かせるように撫でると照れくさそうに笑った。…なんでこの子こんなに可愛いんだろう。
ほうほう、初バトルか。それにしてはおどおどしていなかったし、素人の私が見ても分かるぐらいにセンスはあると思う。…ん?初バトル?

「ああ、そういや私も初バトルだ」

ブイのバトル見たから感覚狂ってたけど、私が指示したバトルはこれが初めてだ。うーん、気づかない内に初めてが終わったってなんか悲しい。

「は!?さっきのが初……へー」
(俺よりセンスいいとか悔しいから意地でもいうもんか…)
「…どうかした?」
「別に。次行くぞ」

その言葉と共に隣にいたフシギダネが前に出た。

「こっちはもちろんフシギダネだ」
『負けないよー』
「こっちも負けてられないねブイ」
『叩きのめす』
「可愛いからって容赦しねえぞ」
「あ!それは言っちゃ…!!」
『……はっ…可愛い、だと?』

可愛い。その言葉に反応し、ブイの体が震えだす。たらりと頬を伝って冷や汗が垂れた。ブイは口にはしていないが、かなり自分の外見を気にしている。ピンポイントで地雷を踏んだのでは……

『……殺す』

ああああああもうまさに魔王降臨!いつもより倍目つきが悪い目が一直線にグリーンとフシギダネを睨み付ける。不可抗力で巻き込まれたフシギダネはその怖さにもう涙目だ。同情するしかない。あの可愛い代表のイーブイをここまで凶暴に見せられる。流石ブイクオリティー。怖い。

『…何か、言ったか』
「すみません、何もないです」

…あれ、私本当にトレーナーなんだろうか。上下関係が逆だ。少し涙でそう。気持ちを落ち着かせてから前を見る。グリーン達は怯みながらも準備はできているようだ。

「さ、さっきと逆でそっちから先行でいいぜ」
「了解ですー…」

簡単に想像できるこの後の様子に、軽い気持ちでは指示できない。ああでもやるしかない…

「えっと…軽ぅく体当たりあたりをお願いします…ほんと軽くね!」
『ちょ、ちょっと待って僕悪くないよね悪いのマスターだよね!?関係ないよね!!?『煩い』ぐへぇっ!!!』

逃げる暇もなく、フシギダネは攻撃をもろに喰らった。衝撃でフシギダネはそのままとんでいき…
見事グリーンに激突した。流石、素晴らしいコントロールです…勿論ぶつかったフシギダネはそのまま戦闘不能になり、バトルは終了した。
……一つの尊い命を犠牲にして…

「勝手に殺すな!」
『…チッ』

その舌打ちが冗談とかではなくホントに悔しそうなのが怖い…と言いたいけど、どうなるか分かり切っているので言いません…嗚呼、隣で『ブイすごーい!』と言える爽の純粋さを分けてもらいたい。

『ちょっとひどいよー二人とも…』
「ごめんごめん大丈夫?でも、元をたどれば君のマスターの一言が発端だからさ…」
『そだよね…僕トレーナー運悪いのかなぁ』
『かなりな』
「二人ともそれは流石に酷い…」
『?頑張れー!』
「いつでも爽は可愛いね」

「……俺は存在無視か…」

一人でいじけているグリーンが姿が悲しかったので仲間に加えた。うん、私優しい。いつもは生意気なのにそこでいじけているところをだすのが年相応で可愛いなぁ。

「そいや、ここはいつ出るんだ?」

機嫌もすっかり直ったグリーンは抱き上げたフシギダネを撫でながらそう問うた。

「ん?いまから」
「……はぁ!?急すぎだろ!?」

予想外の答えにフシギダネを落としそうになったがなんとか耐えた。まだ信じきれないのかじっと視線を合わせてくる。

「さっきナナミさんにはちゃんとお礼も言わせてもらったし偶然出会ったオーキド博士にも言ったし、荷物ももう持ってるし準備は万端だよ」

中身の詰まっているウエストポーチをポンポンと叩いた。

『遠足が楽しみで早く起きすぎてしまうガキだな』
「まさにそのタイプだから何も言い返せない…」
「ヤバッ、俺も早く準備していかないと差付けられる!まあ、すぐ追いつくけど」
「うわ、生意気」
「…華音、気を付けろよ」
「分かってる。それにこの子たちがいるから大丈夫」
「それもそっか…
…ブイ、守れよ」

しゃがんでブイの目を見て言った。ブイは当たり前だと、伝わらない言葉の代わりに尻尾をゆらりと動かす。

「そっちも気を付けてね」
「分かってる」
「じゃあ行くね」
「…絶対にすぐ追いつくから」
「うん、待ってる。またね」

華音は手を振ると振り返ることなく、真っ直ぐと歩いていった。

「…はぁ」
『どうしたの、マスター』
「何か、追いかけたくなる背中だ」
『…早く準備して、追いかけよっか』
「おう」

道なりに1番道路への道を歩いていく。きっと後ろでは、グリーンが準備のために家へと急いで帰っているんだろうなと簡単に想像できて、笑えた。


別れがあるから出会いがある
(?面白いものでもあったの?)(ううん、何でもない)(次の町までどれくらいかかる)(えーと…)
130810


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