着いたのは研究所の一番奥にある小さな部屋。オーキド博士は任せたぞ、と言って戻っていった。
扉を開ける。明かりはついてなく、窓ないのか部屋は暗い。物音はしないが何かはいる気配はする気がする。電気を付けると部屋の中が丸見えになった。隅に何かがいる。あの緑色の塊は…

「ナエトル」

名前を呼ぶと、体が跳ね上がった。いきなりで驚かせてしまった。
怖がられないであろうギリギリの距離まで近づいて座り、その姿を眺める。
私の知っているナエトルより一回り小さい…気がする。シンオウの初めのポケモンでは一番ナエトルが好きだ。進化してもカッコいし強い。可愛い顔で大きな目もいいし短い足もたまらない。お尻もポイントだ。不謹慎かもしれないが、本物を見れて嬉しい。
先程のゼニガメのように無邪気なのも可愛いけど、こう…怯えている姿もそれはそれで可愛いと言ったら…怒られるな。

『…気持ち悪い』
「本気で気持ち悪がるのだけはやめてもらえますか。泣きそうになるから」
『知るか』

後ろにいたブイが前に出てナエトルを見る。

『完全に怯えているな』
「ですよね…どうにかできないかな…ブイ説得頼める?」
『……』
「そんなにめんどくさそうな顔しない!行って来い!」

ブイは私を睨むと、物凄く、物凄くめんどくさそうな顔をしながらナエトルの元に向かった。

『…オイ』
『…わっ!な、なに?』
『アイツと話せ』
『で、でも僕…人間、怖くて…っ』
『(チッ、めんどくせぇ)』

ブイの舌打ちにナエトルの顔が青ざめる。人選ミスなのはわかっている。でも君しかいないんだ。頑張れブイ!

『…アイツは確かに馬鹿でアホで変人でウザいし無駄にテンション高いヤツだ』
『…それもうほぼ悪口だよ』
『…だが……悪い人間じゃ…ない』
『…そっか』

ナエトルが笑う。上手く成功したようだ。
…ブイの声が小さくてあまり聞こえなかったけど、所々聞こえた単語が「馬鹿」とか「ウザい」ってどういうことでしょうか…私の悪口しか言ってないとかそんな訳ないよね。私の馬鹿加減聞いて警戒緩めたとかそんな訳ないよね…ね?
それにしても二人が並ぶ姿は格別に可愛い。ちびっこポケモン最高。デジカメを買うことを本格的に考えようか…これ以上考えたら怒られそうだからやめよう。
ナエトルを連れたブイが帰って来た。ブイの後ろからこちらを伺っている。

「こんにちは」
『こ、こんにちは』
「怖いの、少しマシになった?」
『ちょっと、だけ』
「そっか」

恐る恐るブイの後ろから出てきた。

『あれ、お姉ちゃん僕の言葉分かるの?』
「そうだよ」

…お姉ちゃん呼びはちょっと犯罪級ですね。天使か。

「撫でさせてもらってもいい?」
『え、う、うん』

手が触れた時には体を強張らせたが、慣れると気持ちよさそうに目をつぶった。抱き締めたいけど…初対面の人間に抱き締められるなんて怖いだけだろうからやめた。

『お姉ちゃんは撫でるのが上手いね』
「そう?」

触れ合いで打ち解けだした頃、雰囲気を壊すのは申し訳ないが本題に入った。

「ちょっと聞いてもいいかな」
『なぁに?』
「君は、どうしてここにいるの?」

緊張が解けて力が抜けていたナエトルの体がまた固まった。…直球すぎただろうか。ナエトルは俯いてしまった。

「ごめん。無理なら答えなくていいよ」
『ううん、大丈夫』

ぽつりぽつりとここに来た理由を教えてくれた。
元はシンオウにいたらしいが"R"のマークの付いた服の人たちに捕まってしまったらしい。カントーまで運ばれなんとかに逃げ出したはいいが、知らない土地でどうすればいいか分からず途方に暮れていた。体力もなくなり倒れていたところをオーキド博士が拾ってくれたそうだ。

「"ロケット団"、か」
『どうかしたの?』
「いや?」

カントーに来た時点でいつか関わるかもしれないとは思っていた。こんなに早くとは。シンオウにまで手を伸ばしているとは…他にも捕まったポケモンはたくさんいるだろう。ロケット団だからといってもすべてが悪だとは決めつけてはいけないが、こう目の前にするとやっぱり許せない。

「よく頑張ったね。寂しかったでしょ」

ナエトルの目から涙が零れた。まだ、子供なんだ。一人は辛いし、大変だったと思う。本当よく頑張った。
撫でると腰に抱きついてきた。きっと甘えたいんだ。泣きやむまで頭を撫でた。
布越しでも濡れたことが分かる程湿ったころにはナエトルは泣き疲れ眠っていた。

『寝たのか』
「今までろくに眠れてなかっただろうしね」

―おやすみ。いい夢を見てね。

寝ている間も頭を撫でていると、部屋の扉が開く音がし、見てみるとオーキド博士だった。オーキド博士が声を出す前にナエトルが寝ていることをジェスチャーで伝えると、静かに私の隣に座った。

「ぐっすり寝ておるな」
「うん。幸せそう」

今のうちにオーキド博士にナエトルのことを話しておいた。ロケット団という言葉が出ると、顔をしかめた。すでに有名だそうだ。

「ありがとう、助かった。やはり話せないとわからないことばかりじゃった」
「役に立てて良かったよ」
「お礼と言っちゃなんじゃが、今日はうちに泊まっていくといい。グリーンも喜ぶ」
「そうさせてもらおうかな」

『……ん…』

人の声で目覚めたようだ。ぐっすり眠れたのか気持ちよさそうに伸びている。

「ごめん、起こしちゃったね」
『気にしないで』
「ナエトル君は良い子だ」

膝から降ろすと、オーキド博士に気付き、体が強張った。短時間でそうそう恐怖心が取り除けるわけがない。ここはナエトル君の頑張りどころだ。

「…怖い?」
『ちょっと怖いけど…大丈夫。この人は僕を助けてくれた人だから』
「いいこいいこ。あの、オーキド博士」
「好きにするといい」

オーキド博士は微笑んでくれた。

「…ナエトル君、外は怖い?」
『…うん』
「なら、嫌かもしれないけど…私と旅に出ない?」
『お姉ちゃんと…?』
「そう。特に目的はないけどのんびりと街を回るの。買い物したり、美味しいものを食べたり、時にはバトルしたり。バッジを集めるのもいいかもしれないね。ブイもいるし、これからもっと仲間も増えていく。きっと楽しい旅になると思うんだ。どう…かな」

話を聞いたナエトルの目がキラキラと輝く。

『僕、お姉ちゃんとならきっと何も怖くないよ。一緒に行きたい!』
「ブイも構わないでしょ?」
『何言っても答えを変えないくせに聞くな』
「わかってるねぇ…じゃあ爽[ソウ]、よろしくね」
『…?僕の事』
「そう、君の名前。今思いついたものだけど」
『名前…有難う嬉しい!!』

短い尻尾を振る爽はとても可愛いけど…何故か隣のブイの機嫌がすこぶる悪い。この少しの間の知らないうちにブイの地雷を踏んでしまったのだろうか。理由が分からないからどうしようも出来ない。

『(自分より先にちゃんとした名前をもらったことにこんなにいらつくとか…餓鬼かよ。らしくない…ホント、こいつには乱される)』

いきなり睨まれ舌打ちをしたブイに意味もなく怯えた。


二人より三人
130810


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