「椿ー、コーヒーほしいー」
オフの日は二人でだらだらと過ごすのが最近の流れ。
もちろん出かけたりとか食事に行ったりもするけど片や元とは言え日本代表選手。
10年たって世代が交代してもいまだに知ってる人は多く、行く先々で声をかけられれば引っ込むのが道理というもんだ。
しかもETU自体が上り調子で知名度も上がりつつある。
その監督と選手が歩いていればどうしても目立ってしまう。
というわけで何をするわけでもなくぼーっと午前中を過ごしていた。
「あ、豆切れちゃってインスタントしかないんすけどそれでいいっすか?」
大人しくソファに座った達海の膝のあいだに身体を納めてた椿は、くるりと振り返る。
「いいよ、それで」
「あ、じゃあお湯沸かしてきます」
よいしょ、と膝に力を込めるが後ろから回された腕に立ちあがるのを阻まれる。
「あ、あの、監督…?」
「ちーがーうー」
さらにぎゅうときつく抱き締められる。
「た、達海さん…」
「椿離れんの、や」
「やって…それじゃコーヒー作れないですよ?」
やや間があって離れていく腕に一抹の寂しさを覚えながらも、今度こそ立ち上がると備え付けの簡易キッチンへと向かう。
やかんに半分くらい水をいれて火にかけて。
その間に、付き合いたてのころお揃いで買ったマグカップを取り出しインスタントコーヒーを適量入れる。
あとは沸騰するのを待つだけ。
「椿まだー?」
「そんなすぐにお湯が沸いたら苦労しません」
音が変わる。
白い湯気を吐きだし始めたのを確認して火を止めると、そのままマグに注ぐ。
甘党の達海には半分まで。
のこりは牛乳で埋めて砂糖を少々。
自分は3分の2までいれてそのまま。
「はい、どうぞ」
牛乳をいれるからどうしてもぬるくなってしまうが、達海は一口飲むとゆるく笑った。
「おいしいよ」
「インスタントですけど…」
わずかな気恥かしさをコーヒーを飲むことで紛らわすと、もといた場所に座る。
安っぽくあるが慣れた味と苦さにふっと気が緩む。
じんわりと手のひらから伝わる温かさは誰かに似ていてとても心地よいのだ。
「しっかし椿がブラックだとはね。びっくり」
「そう、ですか?」
幼いころから特に何もいれずに飲んできたため自分にとってはこれが普通なのだが、周りから見るとどうもイメージと違うらしい。
最近も世良や赤崎から驚かれたばかりだ。
「なんか砂糖どっさりー、むしろコーヒーダメーみたいなさ」
「はあ…」
小刻みに揺れる黒い水面を見る。
おかしい、のだろうか。
「ま、そんなギャップも俺は好きだよ」
「監督…」
この人の一言にいつも助けられてばかりだ。
まだ湯気を放つブラックコーヒーに口をつけて、控えめに笑う。
だから離れられないのだ。
もっとこの人知りたくて、この人の一番でありたくて。
「うし、昼からどっか出かけるか」
「え、いいんすか…?」
手に持っていたカップを取り上げられ、向かい合うように達海がソファから下りてくる。
一瞬。
重なった影はすぐに離れていき、顔の赤い椿が驚くように眼を見開いていた。
「最近ずっと家だったじゃん。たまには、ね」
いや?
なんて問われて。
Yes以外は用意してません
ただ椿はブラック、が書きたかっただけ。
うちのバッキーは基本したたかです^^
原作の気弱さはパッカが食べてしまったので…
101107