例えば真剣に考えてる時の横顔。
例えばいいことを思いついた時の笑顔。

そのすべてにドキドキして、しゃべることもできないなんて。
もう、末期。





今日も返事だけだった。
ごろり、と冷たい芝に横たわり星の見えない空を見上げる。
昼間厚く覆っていた雲は今も晴れていないらしく、わずかに空気が湿っぽい。
基本的に誰とでもうまく会話出来ている自信はないけれど監督は、その比じゃない。
舌が回らない。
口が開かない。
果ては呼吸さえ苦しくて。
さすがに試合中はそんな余裕なくてしゃべってるんだろうし目も合わせてるんだろうけど、ピッチを出るともうダメ。
ため息が闇に紛れた。
そろそろ周りの電気も消えるころだ。
いい加減帰らなければ。

「お前好きだね、ほんと」

静寂が割かれた。

日ごろ鍛えていた腹筋を使って飛び起きる。

「え、あ、え?」

ぱくぱく。
吸っては吐いて。
酸素が供給されない。
どうして、なんて考えるだけ野暮だ。
監督はすぐそこのクラブハウスで寝起きしているのだから。
やってくるも何もない。

「ま、分からなくもないけど」

よっこらせ、と掛け声とともに隣に腰をおろされた。
これじゃ帰ろうにも帰れないではないか。

「それにしても蒸すねー。明日は雨か」

先ほどから一言もしゃべらない自分が気にならないのか、マイペースにシャツの襟元をあおぐ。
いや気にしていないのかもしれない。
自分が緊張してしゃべれないのはいつものことなのだから。

「椿さ、最近俺のこと避けてるでしょ」

すごい微妙にだけど。

何の前触れもなく爆弾が放たれた。

「なん、の、ことですか」

動揺が表に出てないだろうか。

「いや、別にそれを糾弾したいわけじゃなくて純粋に気になったんだよ」

「…はあ」

胡坐をかいていた足を組みかえる。
ぴりぴりしびれてきた。

「ま、それをピッチ上に持ちこんでいないあたり偉いとは思うけど。…俺としてはさ」

監督の言葉が止まる。
不自然に切れたセリフに何の気もなしに振り向けば。
思いのほか真剣な顔をした監督に視線が行きあたった。

「もう一歩踏み込んでほしいかな、なんて。今のお前にゃ早いか」

明日もがっつり練習すんだから早く寝ろよ。

最後にいつもの笑みを残し監督は自分の部屋に戻っていった。
残されたグラウンドで一人考える。

なんだったんだ、今のは。
分からない。
分かりたくない。
理解、したくない。

冷たくなった両手で顔を覆う。

どうしたらいいのだろう。






始まったプソティ













タツ→←バキくらいで
自覚編



101102






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