綺麗に並べられたパイプイス。
目の前に広がる壇上には、国旗と校旗。
床に敷かれたシートはイベント事のたびに生徒会総出で敷いた。
二階建ての大きな体育館には数えきれないほどの思い出が詰まってる。
大好きな体育。
眠かった全校集会。
すべてが始まった場所で、終わる場所。
先輩を2年間見送った。先生たちも見送った。
今日は、自分が旅立つ日。

卒業式

大きく達筆な字で書かれたそれは一番目立つとこに掲げられていて目頭が熱くなる。
ここだけじゃない。
校舎も校庭も、この敷地内全部にたくさんの思い出がある。
日差しが気持ちよくて、いつもうとうとしてた教室。
クラスの違う友人と休み時間によく話した廊下。
少しだけ気恥かしかったトイレ。
授業に部活に思い切り走りまわったグラウンド。
狭い部室はいつも汗と土の匂いがした。

がらんとした体育館を出て、校舎へとつながる渡り廊下に足を進める。
部活動に力を入れてるこの学校は、卒業式とか関係ない。
そこかしこから声が、音が聞こえる。

中学3年の三者面談で、ぎりぎりかもなと担任から言われて必死に勉強したほどここに来たくて、それでなんとか合格して、入学してから数日後勉強した甲斐があったと中学に報告しに行ったのがつい昨日のように感じる。
あまり社交的な性格ではないと自覚してるし人見知りも手伝ってそう友人は多く出来なかったが、その少ない友人たちはみんないい奴らで、きっとこの先も付き合いが続いていくのだろう。
部活の先輩なんかすごく面白くて、ほんと部活のために学校に来てた日もあったくらいだ。

「椿」

そしてなにより。

「まあだ残ってたのかよ、卒業生。うん?」

この人との出会いが、なにより、自分をここに縛りつけようとする。

「たつみ、先生…」

1年と3年の時の英語担当。
どちらかと言えばイギリスよりの発音には、最初戸惑った。
そして、サッカー部の顧問。
けして弱くはないが勝てなかったサッカー部を立て直して国立に行けるレベルまで成長させてくれた人。

「とっくの昔に卒業式は終わったぞ」

「あ、や、ガブリエルたちとサッカーしてたので」

「ああ、送別試合か。楽しかった?」

「…はい」

夕日が照らす廊下を二人で歩く。
歩きなれた道は、立場が違えばこうも変わるのかというくらい、どこかよそよそしい。

「引っ越しは?いつくらいになんの?」

「えと、今月末には…」

「そうか」

卒業後の進路として、プロの道は選ばなかった。
もっと世界を見て、それで、それでも自分がサッカーを続けていたいなら改めて目指そうって。
今は常識も自分の力も分かる。
子供の時みたいに夢ばっかり言ってられない。

「椿、」

「…はい」

「辛かったらいつでも来い。あと2年は最低でもいるからさ」

「先生…」

西日を背負った先生はいつもみたいに笑って、手を差し出した。
つーんと、目の前が霞む。

「はい…!」

差し出された手を握って握手をした。
これで大丈夫。きっと。

「達海先生。ありがとう、ございました」
























オチが浮かびませんでした^^

110509







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