「あ、監督。見てください、椿です」

数歩先を行く椿がふとかがむと、花を手に振りかえった。
庭の垣根に植えられたそれはぽつりぽつりと黒い地面に赤色を咲かせている。
もこもこに巻いたマフラーに顔をうずめ、椿はそっと花弁を撫でた。

「俺も、いつかこんな風に散ってしまうんすかね」

ふわりと吹き抜けた北風が花をさらっていく。
揺れる黒髪に目を奪われた。

もうすぐ、春がやってくる。

優しく微笑んで花を手放した椿に、俺は、なにも返せなかった。





20110306






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -