拍手ありがとうございました!!





下町の商店街の外れに、小さな小さなケーキ屋さんがありました。
こじんまりとした店ですがケーキはどれもおいしく口コミで少しずつ人気が出始めていました。



ショートケーキディプレッション!


「よー、椿」

からん。
ドアに付けたベルが来客を知らせる。

「いらっしゃい、達海さん」

その音にひょいと厨房から顔を出したのはこのケーキ屋の店主でもある椿と呼ばれた青年。
店内は薄暗く、閉店していることがうかがえる。

「すみません、呼びつけちゃって…」

「いーえー、かわいい椿くんの頼みですから」

達海は近くにあった椅子を引くと腰をおろした。
ほんのりと店中に香る甘いにおいは控えめで、なんともあの店主らしい。
そこまで考えてはっと息を吐いた。
どれだけ俺は彼に近づいたんだ。
こんなはずじゃ、なかったのに。

「あのこれ、なんですけど…」

おそるおそる厨房から出てきた彼が手に持っていたのは四角形のショートケーキ。

「おいしそー」

「これでほとんど完成なんですけど、味を聞いておきたくて。いつもすみません」

「ケーキただで食えて得してんのはこっち。椿があやまんなくていいって」

半年前。
上京してきたばかりで金もなく、食べ物探してさまよってたときにたまたま彼と出会った。
そんなべたべたな出会いだったが彼、椿はパティシエの癖に甘いものがダメなんだそうだ。
だから代わりに新しく出すケーキの試食をしてくれないか。
そう言って一つのケーキを俺の前に差し出した。
男の人でも買えるケーキを作りたい。
淡く笑って言った言葉の通り、彼のケーキは程よい甘さででもしつこくなく月並みだがおいしかった。
それからケーキができたと呼ばれて試食にいったり、余ったケーキやお菓子をもらいに行ったりと微妙な関係が続いている。
別に深入りするつもりもなかったのに。

「どう、ですか?」

「ん、おいしいよ。このままでも十分」

「よかった…」

感想を待つ不安げな顔。
おいしいと言ってもらえて安堵する顔。
客と接してる時の笑顔も、おばちゃんに絡まれて苦笑してる顔も、全部が目にとまり視線をそらせなくなる。
こいつの一挙手一投足が気になる。

「あ、そうだ。お礼に、なるかは分からないんですが…」

差し出された手のひらに載っていたのは、小さなあめ。
それも器用にもサッカーボールの形をしているではないか。

「達海さん、サッカー好きでしたよね。材料が少し余ったんでどうかなって」

「すげえ…」

曲がりなりにもパティシエですから。

少しだけ胸をはって。
自信ありげな新しい表情に動悸がはやる。

「…さんきゅ」

「えへへ、どういたしまして」



ああ、なんとでもいうがいいさ。
惚れたんだ。
この、甘いものがダメなケーキ屋に。
















したたか椿くんその2
もしかしたら続く、かも

最後ですが本当に拍手ありがとうございました!!







以下軽い設定

椿(24、5)
甘いものがダメなパティシエ。でも作るのは好き。

達海(35、6)
地区の少年サッカーのコーチ。よくいき倒れる。












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