両手に持った温もりを握りしめて深呼吸一つ。
大丈夫。

ゆっくりと扉をノックした。



「あ…監督、えと、椿、です」

「どーぞー」

自分で思ったよりも小さい声だったが聞こえていたらしく、いつも通りのへろっとした声が返ってきた。

「し、失礼します」

何回も来ているはずなのに慣れない。
DVDやらなんやらで散らかっている部屋を器用に進みながら大部分を占めるベッドの端に腰掛けた。
毛布にくるまっている監督はこちらを向くことなく、一心不乱にテレビ画面を見続けている。

邪魔はしない。

俺なんかに邪魔することできない。
だからなるべく物音を立てないように集中を切らさないように。
試合はまだ前半何分。
先は長そうだ。




「椿、椿…」

「…ん」

身体をゆすられる感覚に、ふわりと意識が浮上していく。
ぱちりとまばたきをして自分が眠っていたことに気がついた。

「お、れ、えっと…」

「悪かったな、ほったらかしにしといて」

身を起こせばめったにみれないすまなさそうな顔をした監督がいて、一気に目が覚めた。

「あ、や、俺が勝手に来ただけで…。邪魔、だったっすか…?」

「うんや、全然」

ゆるりと笑う顔にホッと息を吐く。
そこで両脇に置かれた二つの缶コーヒーが目に入った。

「あれ?もしかして、」

さわってみればすっかり冷たくなっていて、本来の目的が果てせなくなっていた。

「最近寒いし、すこしでも、と思って買ってきたんですが…。冷たくなってますね」

寝むっってしまったこともそうだしコーヒーのことも。
申し訳なくて俯けば、わずかに空気が揺らいで監督が笑ったのがわかった。
俺より少しだけ大きな手が壊れ物に触れるかのごとく頭を撫でていく。

「ありがと。すっげえうれしい」

どうしても甘えてしまう。
優しい声に、言葉に。

その分だけ、俺も返せたらいいのに。





頑張るあなたのご褒美に






















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精進精進



101113







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