「大丈夫ですかー!」
君をはじめてみたのは
穴の中でした。
その日のことはよく覚えている。
何をやっても上手くいかない日々が続き、みんなに相談したら小平太曰くスランプ状態だと。
彼にもスランプの時期があったらしく一年生の授業に参加したらしい。そのおかげでか『私はそれ以来調子がいいぞ!がははは――』という話を聞いた。
それなら僕も…ということで、乱太郎のクラスの授業にお邪魔したんだ。
授業は、仕掛けられた障害物を避けながら裏山まで登るという(一年生には少し難易度が高い演習な気がする)内容だった。
一年生の最後尾に僕はいて、みんなに指示をだしながら進んでいった。
「ふんふん」
そこまではよかった。
乱太郎という同じ不運力を持っている彼と走っていたら、突然熊に襲われた。
「んな馬鹿な」
――…で、必死に逃げていたわけなんだけど。運よくそこらへんにあった落とし穴に熊は引っ掛ってくれて。
安心してあたり見回したら裏々山まで進んでいたことに気づいた。
急いで戻ろうして一歩踏み出した瞬間、僕だけが落とし穴に引っ掛って落ちてしまった。
そして上を見上げたら――
「私が君を覗いていた、ってことね」
「そういうこと」
真剣になって僕の話を聞いてくれていた彼女は腕を組み、うーんと考え込んだ。
事の説明を終えた僕は彼女の反応に苦笑する。…ふと、我に返り改めてこの部屋を見回すとさっきまで苦笑いしていた自分の顔から血の気が一気に引いたような感覚に陥った。
見たこともないものばかり。
いったいどうしてここに僕はやってきたのだろうか。果たして帰れるのだろうか…。
どっと何か重たいものがのしかかってきた。
僕を不審な人物だとは思わないで快く家まで案内してくれてた彼女――理子ちゃん。
見たこともない衣服を身に纏う彼女、見たこともない道を通って…云々、頭が追いついていけずそこまでの経由は正直あんまり覚えいていなかった。
眉間にしわを寄せている理子ちゃんが言いずらそうに口を開いた。
「わかったことといえば、君はやっぱり違う世界からやってきちゃったってことだね」
「やっぱりそうなんだ…」
不運委員長という力を最大限に引き出してしまった結果がこれか。
嗚呼、さよなら忍術学園。僕はもう――
「帰る方法を見つけるまで私の家にいても構わないよっ」
がっくりと肩を落としている僕とは裏腹な元気な声。
驚いて顔を上げるとにこにこと笑って胸を張っている理子ちゃんと視線が合った。私にまかせとけって顔にでている。
なんだか楽しんでいるように思うけど、彼女の優しさに胸が暖かくなったのは確かだった。
「でも、君は女の子だけど…」
「気にしない気にしない」
くの一には絶対にいなさそうな純粋な子だ。この世界にはこういう子がたくさんいるのだろうか。
きっと幸せな世なんだろうな。
「じゃあひとまず私とお風呂はいろうか」
「ええ!?」
「あははっ使い方とか教えるだけだよ。おもしろいね伊作君」
「……」
兎にも角にも、今日から新生活が始まりそうです。
20101202