お昼休み。
屋上で真琴くんと二人、食後に自販機で買った紙パックのジュースをごくごくストローで飲んでいた。私はいちご牛乳、真琴くんはカフェオレ。

「あのさ、美代子。…変なこと聞いてもいい?」

カフェオレを飲み干したらしい真琴くんが、申し訳なさそうな表情と控えめな声色でうかがってきた。なんだろう。いきなりどうしたんだろう。私はいちご牛乳を飲むのを一時的にやめて真琴くんに向き合った。

「聞いてもいいよ」
「ありがとう……急に気になったんだけどさ」
「うん」
「美代子って、好きな人とかいるの?」

今、いちご牛乳を飲んでなくて本当に良かった。飲んでいたら絶対真琴くんの綺麗な顔に向かって吹き出していたに違いない。

「えっとその、あの」
「その反応はいるんだね」

テンパってたからか、あっという間にバレてしまった。何で真琴くんは昔からこんなに私のことが分かってしまうのだろう。真琴くんはエスパーなのかな。昔からそう感じることが多々ある。

「あーいる、かな?あはは」
「そっか、そうだよね……」

真琴くんはしゅんとしたような、愁いを帯びたような、そんな表情を浮かべる。

ああ、それ、その顔だ。
昔から真琴くんのこの顔が好きで好きでたまらない。何時間でも見ていたくなる。満面の笑みはもっと大好きだけど。というか真琴くんなら何でもいい。

私は真琴くんが恋愛的な意味で好きだけど、片思いのままでいい。誰かを好きな真琴くんが好きだというのも切ないけどいいと思う。とにかく真琴くんが幸せでいてくれたら私も幸せなのである。
両思いになれたらもっともっと幸せに違いないけれども。そんな大層なことは願わない。

真琴くんは、ふっと大人っぽく笑う。

「そっかぁ、美代子は好きな人がいるのかぁ」
「うん」

目の前にいるよ。あなただよ。
そう言えたら幸せになれるんだろうか。分からない。知りたい。でも言えない。

「俺もね、好きな子がいるんだ」

真琴くんが遠くを見て、言葉を落とす。私は冷静を装ったけど、実は衝撃で心が凍り付くようだった。ガラガラと何かが崩れるような、赤から青に変わるような、そんな気持ち。

「でも、その子には好きな人がいるみたい」
「そうなんだ。…辛いね」
「辛いよ」
「気持ち、分かるな」
「…美代子。にぶい」

真琴くんはじっと私を見つめる。深緑が掛かった瞳がとても綺麗だった。顔は何故だかかなり赤い。

「気付いて。俺の好きな子は、昔からずっと美代子だよ」

一瞬の後、真琴くんの言ってることが理解できて顔が沸騰したように火照る。ぱあっと胸の中に暖かい何かが広がって、身体全体に電流が走り熱さに包まれる。
どうしよう。嬉しい。何を言えばいい?

「も、もう、何とかなってるよ」

十年越しの愛というやつなんだからもっとかっこいいこと言えれば良かったんだけど。
ああ、嬉しくて嬉しくて仕方が無い。真琴くんも意味を理解できたようで、恥ずかしそうにはにかむように微笑んでいた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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