遙くんに黒のネコミミをつけたい。それは幼少期からの私の夢であり、野望であった。
いろいろあって幼なじみ以上の関係である恋人同士になることができたので、その夢であり野望であるものを叶えようと遙くんにお願いをすると。
「いやだ」
とピシャリと言われた。まぁ最初に断られることは分かっていた。彼はクールな人だから素直に応じてくれるわけがない。でも私には秘策がある。遙かんが考え直してくれるような秘策が。
「もしこれを着けてくれたら、鯖缶10個あげるから!」
「……え?」
「私が買ってきたの。遙くんにとっても悪い話じゃないでしょ?」
証拠として携帯を開いて鯖缶タワーの写メを見せる。遙くんが明らかに動揺している。鯖缶に興味を釣られている。
「ね、本当に渡すから。お願いします!」
両手をパンと合わせて懇願する。と、遙くんは少し唇を歪ませて難しい表情をして私のポケットから黒のネコミミをひったくる。
そして、顔を少し赤らめてカポッと頭に着けた。
黒のネコミミを装着した遙くんを一目見たその瞬間、私の脳内世界限定だけど、遙くんの周りに薔薇が散らばった。かわいい。余りにもかわいい。遙くんの黒髪と黒のネコミミがばっちり合わさってもう何の違和感もなくただひたすらかわいい。可愛らしく美しい黒猫がここに誕生したのだ。
「しゃ、写メ撮っていい?」
「絶対ダメだ。撮ったら怒る」
「まぁそれはそうか…いやしかし…かわいい…」
いい古物を眺める骨董屋さんみたいな言い方をすると、遙くんは少しムッとして
「かわいいって言うな。俺は男だ」
と言う。あぁ、不機嫌そうな黒猫遙くんもまたたまらなくかわいい。
「…頬にチューしてもいい?」
もう辛抱たまらんという感じだ。抱きついてぶちゅーっとしたい。変態みたいだけどしたい。まぁ断られることを考えてのお願いだけど。
「あ、本気にとらなくていいよ」
「…本気じゃないのか?」
「え?」
何を言うのかこの人は、と思っていたら遙くんは、ぽつりと呟くように
「それなら、いいって、思ったのに」
と言葉を落とした。目を少し潤ませて耳まで真っ赤にしてうつむいてこんなことを言っちゃう黒猫遙くんは、天使か悪魔か。