幼馴染の家に入ると謎の匂いが充満していた。おばさんに本人はキッチンにいるわよと聞いたので、お礼を言ってから向かう。
そしてキッチンにて。黒焦げの物体を見下ろし、じっとしている幼馴染を見て何とも言い難い気持ちになった。
「真琴くん、またチャレンジしたんだね」
「そして失敗したよ…」
こう思ったら失礼だけどもここまでワケの分からないものだと逆に見事だ。あっぱれだ。ところで何なんだろうこれ。
「オムライスを作ろうと思ったんだけどね…」
あ、これオムライスなのか。
皿に乗るオムライスを見下ろす真琴くんの目は程よく死んでいた。
「オムライスは難易度が高いよ真琴くん。私だって苦手だし。まずは卵焼きからスタートするのがいいよ」
「俺、卵焼きも駄目なんだ」
「あぁ、わかるわかる。スクランブルエッグになっちゃったりするよね」
「いや。黒焦げになるんだ」
「(何故そうなる…)」
はぁ、とため息をつく真琴くんには哀愁が漂っていた。真琴くんはふわふわしているから料理とか主婦業が得意そうに見えるけどそうでもない。昔から家庭科の授業ではご飯をお粥にし、ホットケーキをカチカチにしていたっけ。
「いつか上手になるよ。おじいさんになるまでには」
「嫌だ。もっと早く上手になりたい」
皿を持ちながらいやいやと首を降る真琴くんはシュールだった。こんな、小さな子みたいになる真琴くんはとても貴重で珍しい。
「いくら真琴くんがメシマズでも真琴くんは真琴くんだよ」
「メシマズって…ううぅ」
「あ、ごめん」
「とにかく嫌なんだよ。料理下手なの」
「どうして」
「だって、だって」
ことん、と台にオムライスの皿を置く真琴くんはしょんぼり顔だった。
「好きな子が昔言ってたから。将来結婚するなら料理上手な人としたいーって」
「えっ誰が言ったの?遙くん?」
「なんでハルなんだよー!違うよぉ」
「あ、そうか女の子か。で、誰?」
「…覚えてないの?」
「え?」
「ふんだ。もういい」
真琴くんはつーんとした横顔を見せる。けどすぐにこっちを向いてにこりと笑う。
「なんてね。早く思い出してね」
相変わらず真琴くんの笑みは美しい。けどキッチンは変な匂いが充満している。そして私はその何かを、じわりじわりと思い出せそうだった。
あれ?それを言ったのって、もしかして。
もしかして。