「うえーしんどー…」
アイボリー色した天井を睨みつけながら苦しく独り言を言う。私の身体を締め付けているのは37度の熱。平熱が低い私としては、37度はかなりの高熱なのである。
今日は学校を休んでしまった。今まで一回も休んだことが無かったのに、皆勤賞だったのに。あぁ、悲しい。
悔しくてまた天井を睨みつける。彼(天井)には何の罪もないのだけど、やることがないから仕方がない。
はぁ、とため息をついて身体を起こす。明日には熱が引くかな、食欲はないけどゼリーが食べたいな。
なんて色んなことを考えていたら、廊下から話し声が聞こえてきた。お母さんの声と、それと。
コンコンと部屋のドアにノックが鳴る。
「入るよ」
ドアが少し開かれる。そこにいたのは幼なじみの橘真琴くんだった。あとお母さんもちらちらこちらを覗いている。けどニヤッとしたあとスリッパのサササいう音を立ててすぐいなくなった。
「真琴くん」
「美代子。元気……ではないよね」
眉を下げて薄く笑う真琴くん。ああ、真琴くんだ。真琴くんの良くする顔だ。
「わざわざ来てくれたの?」
「そんな、わざわざだなんて……あ、おばさんにゼリー渡しといたから、後で食べてね」
「真琴くん、相変わらずエスパーだね」
彼は私の食べたいものや飲みたいものを言葉にも出してないのにすぐ持って来てくれるのだ。
「そうだよ。俺は美代子の考えてることならなんでも分かるんだから」
真琴くんは口元に手を当ててくすくすと可愛らしく笑う。
「じゃあやっぱりエスパーだ」
「昔からずっと一緒だったからね…」
後ろ手を組んでにこっと笑う真琴くんは相変わらず天使である。昔からずっと、というか生まれた時から彼は天使なのである。
「ねぇ。熱はどう?」
笑っていたかと思えば真面目な表情をして、距離をぐっと詰めてきたので慌ててわたわたしてしまった。真琴くんは大きな手を私のおでこに当てて、首を傾げる。おでこが物凄く熱くなった。
「ちょっと熱いね」
それは熱があるからではなく、真琴くんに緊張してるからだと思う。けど恥ずかしくてそんなこと言えない。
「あっ…ごめん」
私の顔を見て真琴くんはパッと手を離す。その頬は少し赤みが差していて、私と同じようにわたわたしていた。
「真琴くんなら全然いいよ」
「…なんか、それ、照れるね」
なんでだろう。明日にはけろっと治って、元気に学校に行ける気がする。