最近、御子柴部長の妹がよく学校前をうろつくようになった。名前は確か美代子とかいったか。兄妹の顔はあんまり似てない。あの人が言うには妹は母親似らしいが。
「あ、凛さん」
校門から出ようとすると、やはり御子柴妹がいて俺に声を掛ける。毎日これの繰り返し。こいつも良く飽きないな。毎日見てるせいで顔も声もすっかり記憶してしまって忘れられないくらいになってしまった。
「また来たのか…」
「あ。呆れてますね」
「そんなに兄貴が好きなのか?」
「うーん。まぁ、兄のことは好きですけど、別の理由があるんですよ」
「別の理由?」
にこりと笑うその顔は御子柴部長に似ていた。
「凛さんを拝みに来てるんです」
「……はぁ?」
バカバカしいという風に吐いたが、一瞬でもどきりとした自分が情けない。それもこんな奴に。御子柴の、部長の妹に。
「凛さん見ていると幸せな気持ちになるんですよ」
「なんだそりゃ…意味わかんねぇ」
と、言いつつも。心臓はどきどきやかましいし顔は火照って仕方ない。
落ち着け俺。こいつは御子柴部長の妹だぞ。御子柴の、妹なんだぞ。俺にとっても妹みたいなもんだろ。
深呼吸をして気持ちを落ち着かせようとした、その時だった。
「そのギザギザの歯!昔大好きだったアニメの悪役キャラにそっくりなんですよね」
御子柴の妹から放たれた言葉に唖然とする。いや、愕然といった方がいいかもしれない。それくらい驚いたというか、呆れたというか。とにかくムカついた。心臓のやかましさも顔の火照りも一気にストンと落ち着く。
「帰れ!バカ!」
怒鳴るように叫ぶと美代子は「ええっ私何かしましたか?!」と慌てていた。ちょっとでもどきりとした自分が情けなくて腹が立つ。やっぱり大嫌いだこんな奴。
前に兄の方に「素直じゃない」と言われたことを思い出して、兄妹揃って何気にムカつく奴らだということを思い知らされた気がした。