人魚は、本当は人間に恋をしてはいけない。
岩の上に乗る真琴くんは水平線の方を見ながら、真面目な顔でそう言う。
まるで童話のような話だと思った。この言葉の中の「本当は、」という部分が引っかかる。

「どうしてダメなの?」
「どうしてかは分からないけど、人魚界で一番偉い人がそう言ってる」
「本当はって言ったけど、誰かに恋をしてしまった人魚がいるの?」
「うん。そう。困っちゃうよね」

真琴くんは本当に困ったように、でも可愛らしく笑う。

「男の人?女の人?」
「男だよ」
「どんな人?」

興味があるので聞いてみる。なんとなくだけど真琴くんがその人のことを知っているような口ぶりだから。

「身長が高めで」
「うん」
「何だかぼんやりしてて」
「へえ」
「しょっちゅう海上に遊びに来てる」
「その人、真琴くんみたいだね」
「だって、俺のことだもん」

え、と言いたかったけど言えなかった。だって真琴くんが、今まで見たことのない、必死そうな、泣きそうな顔をしているから。

「俺、俺ね」

海風がふわりと流れる。それのせいで、私の砂のお城はさらさらと壊れていく。一瞬ただの砂になったものを見てあっと思ったけど、もうすぐにそんなことはどうでも良くなる。私は涙目になっている真琴くんに釘付けになった。海を背景にした、彼の余りにも綺麗な泣き出しそうな顔に。

「美代子ちゃんのことが好き」


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テーマ「人外ファンタジー」
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