「すみませんでした」
ペコペコと必死に謝るけど、私の目の前にいる仁王立ちでそびえ立つおじさんは許してくれそうになかった。
事の起こりはこうだ。
私は海に近い道でおじさんとすれ違ったんだけど、どうも私の手が彼のお尻に少し触れてしまったとおじさんが勘違いなされたようで「セ、セクハラだぞワレェ」とお怒りになられたのだ。いやお怒りというかお照れになられてた感じが強いけど、とにかく私はおじさんに謝り続けていた。触ってないけど。
「ううう…まことに申し訳ありませんでした」
「呼んだ?」
「え?」
おじさんの後ろに、なんと人間になった真琴くんがいた。前に私があげた服を着て、私に向かって手をひらひらしている。いや真琴くんを呼んだのではなく誠に申し訳ありませんでしたのまことなんだけども。でも真琴くんが来てくれて、ホッとする自分がいた。
「あの、この子のこと、許してもらえませんか?」
真琴くんは私が絡まれていることに気付いてくれたみたいで、代弁をしてくれた。おじさんは背も高く体格も良く言葉遣いも良くそして顔もいい真琴くんに怯んだらしく、むっとした顔はしたけどサササと去って行った。
私は安堵のため息をつく。
「真琴くん、本当にありがとう…助かりました」
「ううん。タイミングが合って、良かった」
真琴くんは後ろ手を組んで笑みを浮かべる。天使だ。いや人魚だけどこの人は天使でもあるんだ。
「本当に助けてくれてありがとう」
「気にしないで」
「人魚王子だね、真琴くん」
「…美代子ちゃんの王子ってこと?」
「え、あ、いや、その」
何だか恥ずかしいことを言ってしまった気がする。あたふたしている私を見て真琴くんは大人っぽく笑う。
「じゃあ美代子ちゃんは………かな」
「え、何か言いました?」
真琴くんの呟きが聞こえなかったから、聞き返す。すると真琴くんは首を横に振って。
「ううん、何でもない」
と言い、またにこりと美しく笑った。