「真琴くん。これあげる」

家から持ってきた水鉄砲の出来るゴム人形を、海にぷかぷかしてぽかーんとしている真琴くんに手渡した。デフォルメチックのゆるい顔をしたイカの人形で、口から水がぴゅっと出るやつだ。
真琴くんは受け取った人形を不思議そうにじーっと眺めてから、私を見る。

「な、なにこれ」
「水鉄砲人形だよ。ほら見て」

海の中にイカ人形を浸し、持ち上げて適当な方向に水を放つ。真琴くんはこの水鉄砲に感心したらしく、目をきらきらさせている。

「すごいね、これ」
「すごいでしょ」
「本当に貰ってもいいの?」
「いいよ。家にたくさんあるし」
「ありがとう」

真琴くんは嬉しそうに笑い、自分でも水鉄砲を試していた。

「えいっ」

にこにこしながら私にも水鉄砲を飛ばしてきた。運悪く目に海水が入ってしまってかなり染みる。痛い。

「あいたー」
「えっ、あ、ごめん!」
「い、いや、大丈夫」
「俺は海水が目に染みることはないけど、美代子ちゃんは染みるんだね」
「私というか人間は皆さん染みる、と思うよ」
「そうなんだ…」

目をかいていると、真琴くんは海からバシャンと音を立てて砂浜に出てきた。そして私の目から零れる海水を指で拭う。真琴くんの指が暖かくて、心臓が慌ただしくなる。

「本当にごめん」
「い、いや、もう大丈夫だから」

もう全然痛くないから、と付け足すと真琴くんは眉を下げる。

「それなら良かったけど…」
「うん。もう本当に大丈夫だから」
「そっか」

真琴くんは眉を下げてまだ心配だというような顔をする。その顔がなんだか可愛らしくて、見てて不覚にもきゅんとした。
でも私は、真琴くんの笑顔が好きだ。

「ほら、笑って」
「……ん」

少し困ったように、それでもきれいに笑う。
イカの人形はというと、楽しく遊ぶようにぷかぷかと海に浮かんでいた。


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