「もう夏も終わるね」
駄菓子屋のベンチで、美代子と二人アイスを食べる。みんみんとやかましい蝉の大合唱、蒸せるような暑さ、じりじりしてる太陽にやられてしまいそうになる。
「…こんなに蝉がうるさいのに?」
「うん。あっという間に静かになって秋が来るよ」
「ふうん」
しゃりしゃりとソーダアイスを食べつつ、美代子は「夏にさよならだね」なんて意味の分からないことを呟く。
「私、蝉の鳴き声を忘れちゃうんだよね」
「はあ」
「このとんでもない暑さも、太陽も、毎回秋になると忘れちゃう」
しゃりしゃりとアイスの音が鳴る。
俺にとっては、夏が終わろうが終わらまいがどうでも良かった。
ただこうやって、美代子と話が出来るのなら、どんな季節だって構わなかった。
こいつから見たら俺はただのクラスメートだからそんなこと、絶対に言えないが。
「美代子は、いつも唐突なことを言うな」
俺の言葉に、美代子は微笑んでこくんと頷く。何故か、その笑みはとてもさみしげで。
俺の顔をじーっと見てくるからアイスには気が抜けていて。美代子のアイスはもうとろりと溶けていて制服のスカートにぽとんと垂れていた。
夏が終わる。
美代子が、海外に転校をした。
先生が言うには親の都合だとかなんとか言っていたけど俺にとって美代子の転校理由なんてどうでも良かった。クラスメート全員が知らなくて、ざわざわしていた。どうしていなくなることを誰にも言ってくれなかったのか、それを考えると無性に苛ついた。
何より俺は、美代子のこと、気に入っていたのに。
美代子。俺は、
俺はお前が忘れてしまうと言っていた蝉の鳴き声も、夏の暑さも、じりじりした太陽のこともちゃんと覚えてる。
ついでにお前の笑顔も、悲しそうな顔も、困った顔も、ぜんぶ覚えてる。
秋がはじまる。
けど美代子は、もうここにはいない。