プールを掃除して水を貼ったと噂で聞いたので、水泳部副部長の遙くんに無理を言って見せてもらうことになった。私は小学校以来、学校のプールというものを見たことがない。

「うわ、すごい」

目の前に広がる壮大なプールに、私は物凄く感嘆した。25メートルも、とても長く見える。

「プール、青くてきれいだね」

振り返り、ここに連れてきてくれた遙くんに簡単な感想を述べる。彼は愛おしそうにプールを見つめていたが、私の言葉を聞いた途端ため息をつき、「何言ってんだこいつ」みたいな呆れ顔で私を見た。表情の変わりようが、またなんとも悲しい。あほな意見を述べた私が悪いんだけど。

「青く見えるのは、底面と側面に色が付いてるからだ」
「そうだよね。なんで青くしてるんだろう」
「…目に優しい。あと、水といえば青だからだろ」
「あ、なるほど」

言われてみたら確かにそうだ。青は見ていて安心する。それから青い水、赤い炎なんて言うし。遙くんは頭の回転が早い。というか私が遅すぎるのか。

「いやそれにしても、ここで泳いだら気持ちよさそうだね」
「美代子、泳げないって言ってなかったか」
「あぁ…そういえばそうだった」

自分で自分のことを忘れてた。やはり私はあほな人間だ。

「絶対泳いだりするなよ」
「うん。私はプールを見ていることが一番好きだから、いいんだ」
「…俺だったら、泳ぎたくなる」
「だろうね」

遙くんをちらりと見るといつの間にか完璧な水着姿になっていた。なるだろうなとは思ったけどやっぱりなという感じだ。
彼はすたすたとこちらへ歩いてきて、私に制服のワイシャツとズボンを手渡す。それを見届けるとざぶんとプールに飛び込んだ。

遙くんの制服を落とさないよう、抱くようにに持つ。なんだか優しい、いい香りがした。香水とか制汗剤の香りとかではない、遙くんの柔らかい匂い。

遙くんは25メートルを何回か繰り返し泳いで気が済んだのか、ぷはっと言いながら爽やかに水上に出てきた。

「遙くん」

制服を大切に持ちながら名前を呼ぶと、彼はこちらを見てくれた。

「絶対、絶対泳がないし、泳ごうとも思ってないんだけど、もし私が溺れたら、どうする?」

自分でも変なことを聞いたと思う。何を言ってるんだ私は。けど遙くんは黙って、真剣に何かを考えてくれていた。何秒か経ってから、薄い唇を開く。

「その瞬間は、あたふたする」

思わず、えっ。と言いそうになった。こう感じたら失礼だけど、遙くんって慌てることあるのか。それも私なんかのために、慌ててくれるのか。あと言い方かわいいな。

「それで、すぐに助ける」
「おお、王子様だ」
「…バカ」

少し、照れたように言い放って。背中を向けてまた泳ぎ始めた。
私は遙くんが青の中で泳ぐ姿を見つめる。制服をぎゅっと抱きしめながら。


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