「これ、美代子ちゃんにあげる」
ちゃぷちゃぷと音をたてて海に浮かぶ真琴くんがくれたものは、綺麗な桜貝のブレスレットだった。薄ピンクがきらめいている。
「どうしたの、これ」
「海の底で拾った」
と彼は言った。
拾った?ちゃんとワイヤーでひとつひとつ丁寧に通されたこんな綺麗なものを?真琴くんをじいっと見ると、彼は困ったように笑って
「うそ。俺が作った」
と恥ずかしそうに呟いた。
「やっぱり」
「ごめん、何か下手くそだし」
「そんなことない。すごく上手だしかわいいよ」
「そう、かな」
「うん。私だったら作れない」
私の言葉に真琴くんはえへへと笑う。海から出た尾ひれは嬉しそうにゆらゆらひらひら揺れていて、まるで犬の尻尾みたいだ。
「桜貝を砂浜で拾って、海に戻って糸に通して、砂浜に行ってまた拾って…を繰り返したんだ」
「すごい。手間が掛かってるね」
「いや、そんなでもないよ」
「本当にこれ、私が貰っていいの?」
「うん。実を言うと、美代子ちゃんのために作ったから」
「え、そうなの?」
「うん」
もう一度桜貝のブレスレットを見る。薄ピンクが海水に濡れて、控えめにきらきらと光っている。
「どうして私に作ってくれたの?」
「えっ…それは…美代子ちゃんに、」
「うん」
「桜貝が、美代子ちゃんに、似合うかなって思って」
少しだけ顔を赤くして、目を背ける真琴くん。私のためにわざわざ手間暇かけて作ってくれたなんて、嬉しい気持ちになった。
「ありがとう」
お礼を言うと真琴くんは照れたように笑い、何も言わずに顔まですっぽりと海に沈んだ。髪が少し海面に浮かんでいてそれがなんだか面白かった。