もう彼女を見てるだけの自分を卒業したくて、もっと彼女と親しくなりたくて。
今よりもっと、彼女のそばにいきたかった。

ハルに田中さんのことが好きだとこっそり告げたら「お前はやっぱり変わり者だ」と言われたけど、俺はちょっと不思議な田中さんだから好きなんだ。

保健室で眠る彼女を見てため息をつく。呆れたとかじゃなく、安心のため息。
いきなり倒れたから何事かと思ったけど保健の先生にも大丈夫って言われたし、今こうしてすやすや眠っているから大丈夫なんだろう。

「田中さん…」

なんとなく名前を呼んでみる。自分から放たれる丸い声に、自分で驚いた。こんなに柔らかい声が出るものなのか。なんだか恥ずかしいけど。

「…ん?」

名前を呼ばれたからか、田中さんは目をじわじわと開けた。しまった、起こしちゃったみたいだ。
目をゆっくりかいて、むくっと体を起こし、キョロキョロと周りを見回す。そして俺を見て、目をまん丸にする。

「あ!真琴くん!」
「おはよ。田中さん」
「あ、はい。おはようございます……ではなく」
「うん?」
「なんで私、ここにいるんだっけ」
「あぁほら、田中さん倒れたでしょ?」
「そういえば」
「だから、俺がおんぶして保健室に運んできたんだ」

ベッドの上で正座し、白い布団を両手でぎゅっと握る田中さん子犬のようでなんだか可愛らしかった。

「そ、それは、ご迷惑おかけしました」
「いや、いいんだよ。俺が急に変なこと言ったからびっくりしただろうし…」

自分で言っておきながら、顔から火が出そうだった。付き合ってください、なんて言ったのは今までの17年の人生で初めてだった。よく考えたら女の人に好意を抱いたこともなかったこともないかもしれない。

「確かに、びっくりはした。まさか付け回している相手に、そんなこと言ってもらえるとは思わなかった」

田中さんは顔を真っ赤にしながら布団で鼻から下を全部隠す。

「ご冗談でしょ、って思いました」
「嘘でも冗談でもないよ」
「本当に?」
「うん」
「私、変な女だよ。真琴くんのストーカーだし」

田中さんがちょっと変だっていうことも、俺を追いかけてくれてたのも知ってる。
だから脈があるんじゃないかって、舞い上がってた以前の自分も分かってる。

「田中さん」
「は、はい」

たまに敬語になっちゃうこの子が面白くて、ついつい話しかけてしまう。

「…好きだよ」

彼女の右手をぎゅっと握る。保健室の先生がいなくて本当に良かった。

「あ、わ、私も」

これで晴れて両思い、なんて冷静なことを考えるけどその半面心臓はばくばく鳴っていた。どうしよう、嬉しい。

田中さんは顔をトマトのように真っ赤にさせて、目を潤ませていた。
そんなところも、可愛いと思う。


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -