最近、岩鳶高校水泳部のエースと会計係が付き合い出したという風の噂を聞いた。
エースとはハルのこと。そして会計係とは、目の前でビクビクしてるこいつのことだ。
「り、凛くんどうした。そんなおっかない顔して」
岩鳶の校門から出てきた美代子を引っ張りだし、適当な所まで連れて行き、逃げられないように樹に肩を押し付けた。そして俺は恐ろしい顔をしているらしく、美代子が怯えているという流れだ。
「お前」
「はい?」
「ハルと付き合い出したって、本当か?」
自分でも少し驚くくらいに低い声が出た。色で表したらそれはもう深くどす黒い色という感じの。
さぁ美代子はどう出るか、何を言うか。
「え、なにそれ」
ぽかーんと、間抜けな顔で言葉を落とす。
「遥くんと私が付き合う?そんなことになるわけないよ」
「本当か?」
「本当だよ。嘘をついて何の意味があるの」
美代子のくせにずいぶん生意気なことを言う。けど確かにその通り、嘘をついても何も得はない。付き合ってるなら、そうですよの一言で済ませればいい話だ。
「チッ」
美代子の前からどき、解放する。すると美代子は逃げることもせずに俺を覗き込んで、心配そうな顔をする。
「凛くん、どうしたの」
「どうもしてない」
「今の話、どこから聞いたの」
「…ただの噂だ」
自分でも分かってる。妬いてるんだ。昔から一方的に気になってる相手に彼氏ができたと聞いて、しかもそいつが自分の競争相手と知って、イライラして焦った。
「ねえ凛くん、なんか変だよ」
「うるせえ。美代子のバカ」
子どもっぽい悪口を言って、顔を背ける。こんなに涼しい夕方なのに、顔は熱くてたまらない。