「や、やっぱり怖いよ」
「だいじょうぶ。俺がいるから」

私は今、真琴くんと共に海でゆらゆらしている。
家のタンスから引っ張り出してきた田中がバッチリ書かれてあるスクール水着で、目にはゴーグルをつけて、ゆらゆらしている。
家の近くが海だけど私はこの海で泳いだことはなかった。


何故こんなことになったのかというと、真琴くんが「ねぇ、一緒に泳いでみない?」と話を持ちかけてきたからだ。特に断る理由もないし人魚と一緒に泳げるなんてイルカと泳げるよりもっと凄いことだから、OKをしたんだけども。
マーメイドである真琴くんは超!海に慣れているから、どんどん深いところへ私を連れて行くのだ。


「真琴くん、絶対に手を離さないでね」

なんて、メロドラマの面倒くさいヒロインのベタな台詞みたいなことを言ってしまう。真琴くんは目をぱちくりしてから何故か少し頬を染めて、「うん」と呟いた。

「ほら、美代子ちゃん。真下に魚がいるよ」

真琴くんが指差すところには、確かに小さな魚が数匹いた。集合してお話しているみたいで、なんだか可愛らしい。

「何の魚だろう?」
「イシダイだよ」
「あ、そういえばイシダイだね」
「右から三番目の子、俺の友達なんだ」
「えっすごいね」
「ごめん、ウソ」

感心したのに、なんと作り話だったらしい。
真琴くんは爽やかに笑い、ぼけーっとしていた私の右手を強めに引っ張り、上手に泳ぐ。ちょうどいいゆったりした速さで。

「美代子ちゃん、気持ちいい?」
「うん」

ゆらゆらゆらゆら。くらげになったみたい。いつの間にか、泡になって恐怖は消え失せていた。
真琴くんが、手を離さないでいてくれたから?


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