田中さんの走り去って行くその背中をただただ見つめて、深いため息をつく。そんな情けない俺を見てコウちゃんもため息をつく。

「残念でしたね、こんなに近くまで寄って来たのに」
「…ぷっ。なにそれ」

田中さんのことをまるで動物園の動物のように言うコウちゃんが面白くて、笑ってしまった。優しいコウちゃんのことだから、きっと俺を少しでも元気付けようとしてくれてるんだろう。

「美代子先輩とはまだそんなにお話したこともないんでしたっけ?」
「そうだね。同じクラスだけど、なかなかきっかけが作れなくて…苗字で呼んじゃってるし、ただのクラスメートって感じになっちゃってる」
「きっかけなら美代子先輩が持ってきてるじゃないですか。あの人完全に真琴先輩のこと好きですよ」
「でもさっき付き合うとかは考えてないって言ってたし…俺に関心を持ってくれてるとしても、そういう対象じゃないんでしょ」
「真琴先輩から告白したら、絶対うまくいくのになぁ」
「告白って…」

コウちゃんは気づいているらしい。
確かに、俺は前からぼんやりと田中さんのことが気になっていた。きっかけは謎なんだけど。彼女からの視線を感じて俺もお返しに見続けていたからかもしれない。
二年に上がって彼女と同じクラスになれて、嬉しかった。
でもまともに話したこともなく。なんだか今の見つつ見られつつの関係が壊れそうで怖くてこちらからの一歩が踏み出せないんだ。

「私、遙先輩のタイムを測る約束してるんで、あっちに行きますね」
「うん。話を聞いてくれてありがとう」
「元気だしてくださいね!」

俺が少しだけへこんでいるのを知ってか、明るい声で明るいことを言ってくれる彼女が、とても有難かった。俺は後輩に恵まれているね。


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テーマ「人外ファンタジー」
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