緑のラインが入った競泳水着を穿いてジャージをまとう真琴くん。
そんな彼のことを私は金網を掴んでじーっと見つめていた。
美しい。イケメンな顔立ち、意外にある筋肉、すらりとした長い足、柔らかい声、何もかもが美しい。勝手にキャッチコピーをつけるなら、ナチュラルプリンスってところかな。
ほぅとため息をついて更に金網をギリリと握りしめると、可愛い一年マネージャーの江ちゃんがこちらに寄ってきた。気味の悪いことをしている私に引いたらしく、顔は引きつっている。
「美代子先輩、また真琴先輩を見てるんですか?」
「見てるっていうか、舐めるようにガン見してる」
「余計酷いじゃないですか…。本当に真琴先輩のこと好きなんですね」
「うん」
「付き合いたいとか思ってるんですか?」
「いやいやいや、彼は私にとって憧れの対象であって、そんな大それたことは考えてないよ。旬の草花を見て、わぁ綺麗ねって言うようなものかな」
「その例えはよく分からないですけど…。美代子先輩、気づいてます?」
「何が?」
「やぁ、こんにちは…田中さん」
「!!!」
江ちゃんとずっと話していたから、気づかなかったのだ。大好きな人が金網越しのすぐ近くまで来ていてしかもおそらく多分
「真琴くん…どこから聞いてました?」
「え、あぁ、見てるっていうか舐めるようにガン見してる、のとこから…」
「!!!」
口には出さないけど心の中で悲鳴を上げて、私は後ずさりをしてその場から全力で走って去った。
「あ…田中さん、待って!」
真琴くんの叫びにも振り返らずただひたすら逃げる。
きっとキモイとかキモイとか言われるに違いない。いや真琴くんはそんな言葉をストレートに言う人ではないけど、キモイって思われてるに違いない。
消えたい。