「遙くんは、好きな子とかいないの?」
なんてボケーっとした顔で肘をついて聞いてくるものだからイラッときた。美代子は小さな頃からいつものんびりしててボヤーっとしてて、勉強は出来ないしスポーツも無理だし世間知らずだし、それに極めつけにこんなプライベートなことを簡単に聞いてくる。とんでもない女だ。
「関係ないだろ」
「まぁそうなんだけどね。ごめんね変なこと聞いて」
「…なんでそんなことを聞くんだ」
「いや隣のクラスの子に聞いてきてって言われたから」
小さなあくびをしながら美代子は言う。あの子はきっと遙のことが好きなんだよ、と。その子には悪いがそんな知らない女の子のことは、興味も関心もない。
「遙くん、結構モテるよねぇ」
「そんなことない」
「いやそんなことあるよ。遙くんに彼女が出来たら、私の義理の妹みたいな感じになるのかなぁ」
それも面白いねとかなんとか言って美代子は楽しそうに笑う。それがまた腹が立った。なんでお前が俺の姉の立場になるんだ。明らかに姉って柄じゃないだろうが。鈍臭いから妹にもしたくないけど。
「遙くんに好きな人ができたら、私にも教えてね」
美代子は、本当にどうしようもない奴だ。本当に。
「俺に、もう」
「え?」
「俺に、もう、好きな奴がいるって言ったら…美代子はどうする?」
「おめでとうって言う」
やっぱり美代子は美代子だ。昔から変わらない。バカでアホの美代子だ。人の心が分からない。
もう、こういう奴にははっきり言ってやるしかない。
「じゃあ俺が好きなのはお前だって言ったら、どうする?」
美代子のにこにこ笑顔が、ピタッと真顔に変わった。
「言っとくけど、冗談とかじゃないからな」
そして、頬がじわりじわりと赤くなっていく。その表情も、面白い。