裸足で夢中に砂浜を歩く真琴くんを見て、あることを思い出す。

「ごめん!靴を用意するの忘れた」
「靴?あぁそういえば」
「今すぐ家に戻って取ってくるよ」
「いや、いいよ。裸足で行く」
「ええっ。道コンクリートだし硝子とか落ちてたら危ないよ?」
「なるべく踏まないようにするから大丈夫」

真琴くんはとにかく足が生えた(尾が取れた?)のと、足の裏の感触が嬉しくてしょうがないらしく、裸足で行きたいと猛烈にアピールした。彼がここまで言うのは珍しい。

というわけで、真琴くんは私の家まで裸足で歩くことになった。
海から出て、砂浜よりずっと硬い道を歩く。

「今日、友達が来るってお母さんに伝えたよ」
「ありがとう。俺を見て不審に思ったりしなければいいんだけど…」
「(裸足なのが若干不審かもしれない)」







会話をしているせいか、あっという間に家に着いた。引き戸を横にガラガラと引くと、玄関には何故か正座したお母さんがいた。意味が分からない。

「あらーいらっしゃい!この子が美代子のお友達?!すっごくイケメンじゃない!」

真琴くんを見てきゃあきゃあと騒ぐ。恥ずかしい。人魚の真琴くんが隣にいるからシャレにならないけど泡になって消えたい。

「はい。真琴といいます。今日はいきなりすみません」

ハイテンションなお母さんに上がって上がってと言われ手を引かれた真琴くんは、にっこり笑ってお邪魔しますと礼儀正しく言う。そして私が渡したバスタオルで足を拭いてから玄関に上がった。
お母さんは裸足で来た青年を見て、不思議に思わないのだろうか。

私の部屋へ向かう時、背後からお母さんの彼氏?ねぇ彼氏?という呟きが聞こえてきたけどとりあえずスルーして、真琴くんに部屋に上がってもらった。そしてお母さんには悪いけどドアをちゃんと閉めた。

「これが、美代子ちゃんの部屋なんだね」

真琴くんはきらきらした目で私の部屋を見回す。テレビも本も壁も床も、きっと彼は初めて見るんだろう。

「畳だから、今風の部屋ではないけどね」

私は敷きっぱなしの布団にぼふんと体育座りをした。真琴くんがゆっくり心ゆくまで私の部屋を研究してくれればいい、そう思っていた。

しかし真琴くんは、部屋ではなく私を見下ろして柔らかく笑う。
そしてゆっくりとこちらに歩いてきて、私の目の前で視線を合わせるようにしゃがんだ。

物凄く、顔が近い。

綺麗な目や鼻や唇がまん前にあって、なんだか落ち着かない。目が離せない。
なんだなんだなんなんだ、と驚いていると真琴くんは

「美代子ちゃん。いつも、ありがとうね」

と呟くように言葉を落とす。その少し赤くなった笑顔にどきりとした。
思わず後ずさりしてしまいそうなくらいに距離が近くて。
もうどうしたらいいか分からず、私は無言でこくこくと頷いた。顔が熱い。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -