真琴くんは地上でやりたいこと、人から教えてほしいことがたくさんあるらしく、私に協力してくれないかな?とお願いした。
私も人魚である彼の存在に興味があったので、可能なことならば何でも協力することに決めた。

「まず、何をしたらいいですか?真琴くん」
「そうだなぁ。まず、敬語は使わなくていいよ?」

真琴くんは岩の上でくすくすと笑う。

「あ、分かりまし……じゃなくて、分かった」
「うんうん。じゃあとりあえず、美代子ちゃんの好きな食べ物は何か教えてほしいな」
「好きな食べ物は、納豆だけども」
「納豆…?何かなそれ。初めて聞いた」
「…食べてみる?」
「え、ほんと?いいの?」
「今、持ってくるね」

持ってきた。お母さんに納豆と箸を外に持ち出すなんて意味が分からないどうかしてると言われたけど頑張って持ち出してきた。

「こうやってね、練って食べるんだよ」

張り切って練っているものの、真琴くんは納豆を気に入ってくれるだろうか。納豆ほど好き嫌いが別れる食べ物はないだろうし。
真琴くんは目を輝かせて私の高速練りを見ている。ヒレもひらひらゆらゆらしている。
タレを入れて、辛子を少しだけ入れて。

「ほら、できたよ」

箸と共に真琴くんに差し出した。

「うわーネバネバだ。いただきます」

真琴くんは器用に箸を使い、(海底でも使っているのか)納豆をすくって食べた。

「どう?」
「うん…うん…」

もぐもぐ噛み、ゆっくり飲み込んだ。そしてニコリと微笑む。

「クセはあるけど、おいしいね」
「本当?良かった!私これ毎日三パックは食べちゃうんだ」
「さ、さんぱっく…」

それは無理かもなぁ、と真琴くんは苦笑していた。


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