余りの衝撃で頭がぼーっとしていた。
お兄さんはアホ面をしているに違いない私に、いろんなことを話してくれた。
自分が紛いも無い人魚だということ。
本当は人間と話すどころか、見つかるのもいけないということ。
「私に話しかけたらアウトなんじゃないですか?大丈夫なんですか?」
「ほんとはいけないんだけどね。たまにやってる人魚いるよ」
「タブーを犯したおしおきとかは…」
「特にないかな」
人魚の世界は、とてもゆるいらしい。
「俺、人間と話してみたかったんだけど……昨日は目が合って焦って潜っちゃったんだ」
「そうだったんですか」
「ねぇ、君の名前教えて」
近くにあった岩に滑り込むように座る。透き通るような尾ひれをひらひらさせていて、それがすごく綺麗だった。
「美代子です」
「いい名前だね。俺は真琴っていいます」
よろしくね。岩の上の真琴さんが、手を差し伸べてきた。
きゅっと握ると、じわりと温かさが伝わってきた。