私には日課がある。
朝7時、太陽の眩しさもちょうど良く風も気持ちいいこの時間に、海岸を散歩することだ。
お母さんの朝ごはんを食べたあとの腹ごなしということで去年から始めたけど、朝の海辺は綺麗なので、毎日毎日続けている。
散歩の途中、休憩をする時にお気に入りの大きな岩に座って、真っ青な海を眺めた。なんとも気持ちがいい。まるで人魚になったみたい。
「いやぁ、いつ見てもここの海は綺麗だなぁ」
「うん……俺もそう思う」
真下から返事が聞こえた。えっと思って見ると、そこには海に浸かっているお兄さんがいた。モスグリーンの髪に、緑の瞳。
…誰だろう、この人。こんなイケメン、私は知らない。
じいっと見下ろすと、お兄さんもじいっと私を見上げてきた。そしてみるみるうちに、顔が青くなる。
「あっ!」
と叫んで、バッシャーンと音を立てて海の中に潜った。
頭の中はハテナマークでいっぱいだったし、なかなか上がってこないお兄さんにハラハラヒヤヒヤした。
おいおい大丈夫なのかお兄さん…。そんなに息を吸わないで。
お母さんが私を呼ぶ声がしたので、とりあえず帰宅することにしたけど、私の脳内はあのお兄さんの謎でいっぱいだった。
次の日も、海辺を散歩した。いつもは波の大きな音と、踏むとサクサク鳴る砂の音を楽しみながら歩いているのだけど、今日はそれどころじゃなかった。
「やぁ…昨日の子だよね?」
昨日の緑のお兄さんがいる。
海から上半身だけを出し、砂浜に両手を乗せて申し訳なさそうに私を見上げる緑のお兄さんが。
「そ、そです」
動揺の余り、そうですを縮めたような変な言い方をしてしまった。私は頭にハテナマークをめちゃくちゃたくさん浮かばせながら、その場に膝を立てて座り込む。
「昨日はごめんね。本当は人間に話しかけたらいけないんだけど、つい返事をしちゃったんだ」
にんげん。ニンゲン。何を言っているんだろうこのお兄さんは。あなたも人間じゃないですか。
「あなたも人間じゃないですか、って思ったでしょ」
「!!……お、思いました」
エスパーなのか、この人。不思議に不思議を重ねたような人だ。
「俺、人間じゃないよ」
衝撃的な言葉が飛び込んできた。私は目を何度も瞬きして、にこにこ笑うお兄さんを見る。
「へ?いやだって、どこをどう見てもも人間……」
「これ、見て」
お兄さんの真後ろ。その水面から出てきたのは、小さいころ絵本で見たような、緑色のきらきらした尾だった。
「俺、人魚なんだ」
その場でザバーンと、宙返りをする。彼の胴体と尾は、ちゃんと繋がっていて、明らかに人間じゃなくて、もう言葉が出なくて。
私は魚のように口をパクパクして穴を開けてしまうのではないかというくらいに、お兄さんを見続けていた。