「真琴せんぱーい!」
「ん?なに?コウちゃん」
「これからの練習プランについてなんですけど…」

放課後補習の移動教室ためにプールの近くを歩いていると、岩鳶水泳部の部長である真琴先輩と、マネージャーである江ちゃんがお話しているのが見えた。

「うん。すごくいいよ」
「本当ですか!良かったー頑張って考えてきたんですよ!」
「さすがだね、コウちゃん。えらいえらい」

真琴先輩は、江ちゃんの頭を小動物や触れるように優しく撫でる。その光景を見ていたら、胸の奥にもやもやしたものが浮かび上がった。
すぐ分かる、これはヤキモチだ。大親友の江ちゃんが男の人と仲良くしてるから妬いているのか、お付き合いさせてもらってる真琴先輩が可愛すぎる女の子と微笑ましいことをしているから妬いているのか。
たぶん、後者なんだろう。大好きな友達にそんな気持ちを向けてしまうなんて。

私のしつこい視線に気付いたのか、真琴先輩が私を見た。すると「あ!」と声を上げてこちらに駆け寄ってきてくれそうだったけど、気持ちが落ち着かないのと移動教室の時間が無かったのでその場から走り去った。





補習が終わり、荷物を取りに行くために自分の教室へ引き返す。またプールの前を通った。誰もいない。けど、私はひとりでため息をついた。

「美代子」

柔らかい声が私を呼ぶ。振り返ると、そこにはジャージ姿の真琴先輩がいた。

「会えて良かったー」

真琴先輩は肩を撫で下ろし、美しく微笑む。私の大好きな笑顔だった。

「先輩…部活は?」
「終わったよ。美代子も補習は終わったのかな?」
「お、終わりました」

なんと、私の予定を知っててくれたらしい。真琴先輩は私にゆっくりと歩み寄り、頭を撫でてくれた。気持ち良くって、目を瞑ると

「ねぇ…もしかして、さっき妬いてくれた?」

とんでもない言葉が落ちてきたので、パッと目を開けて真琴先輩を見上げた。

「え、あ、その」
「正解、みたいだね。視線で分かった」
「う……」
「ごめんね」

真琴先輩はいつもよくする、しゅんとした表情を浮かべて謝る。なんで、謝るんだろう。悪いのは勝手にヤキモチ妬いてた私なのに。

「コウちゃんのことは妹みたいに感じているから、つい妹弟と同じことしちゃって…」
「はい」
「ダメだね。俺には美代子がいるのに」

ぼーっとしていると、真琴先輩は更に私に近づき、ぎゅっときつめに抱きしめた。

「ごめんね、美代子」
「い、いえ!怒ってるとかそういうのは全然ないんで、気にしないで下さい!」

恥ずかしくて恥ずかしくて、顔が火照る。暖かい腕の中でわたわたしていると、真琴先輩はくすくすと笑う。

「ありがとう、美代子。大好き」

いつもより大人っぽく、私の耳元で呟いた。ああ、もう全身から湯気が出そう。


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