「遙くんって、隠れファン多いよね」

美代子ちゃんが窓際でぼうっとしている遙を指差し、俺に小声で言う。美代子ちゃんがハルのことを話す時、俺は心中穏やかではない。なんとなくもやもやする。

「真琴くんにもファンが結構いるんだよ。知ってた?」
「そんなことないと思うよ…はは」
「いや、いるんだよ!」

美代子ちゃんがきらきらした目で力説するが、俺としては俺にファンがいてもいなくてもどちらでもいいよ。いやそりゃ俺のことをいいって思ってくれる人がいたら凄く嬉しいし有難いことなんだけども。

窓際でハルが指にチョウチョを止めていた。その様子をちらりと見て美代子ちゃんは腕組みをしてうんうん頷く。

「遙くんに隠れファンが多いのは、あの艶めく黒髪に切れ長の瞳、クールな表情でスリムなのに筋肉がついてる、そしてミステリアスってとこが主な理由だよね。挙げるとキリがない」
「そう、だね…」

美代子ちゃんが夢中になってハルのいいところを挙げていく。男の俺からみてもハルはかっこいいと思うし、綺麗だとも思う。(って言ったら何か変な感じだけど)
でもそれよりも俺の頭の中はハルじゃないことでぐるぐるしている。

(美代子ちゃんは?誰が好きなの?)

気になる。どうしようもなく。気が気じゃないって、このことか。

(美代子ちゃんも、ハルが好きなの?)

俺はいやだよ。美代子ちゃんがハルのこと好きだったら。凄くいやだ。
窓際で肘をつき、プールを見つめるハルを、憧れがいっぱい詰まった瞳で見つめる美代子ちゃん。そしてそんな彼女を見て深いため息をつく俺。
あーもう、俺しんどいよ。美代子ちゃん。

「あっでも、」

美代子ちゃんはいきなりこちらを振り返った。死ぬほど沈んでいた俺は返事もせずに、美代子ちゃんを見る。

「私は、真琴くん派だよ」
「…え?」

暗い暗い海底に一筋の光が差すような、そんな感覚だった。

「遙くんもかっこいいし憧れるけど、私にいつも優しくしてくれて、笑ってくれるのは真琴くんだし」
「美代子ちゃん…」
「だから、私も真琴くんの隠れファンってことかな」

なんちゃって、と付けたし美代子ちゃんは照れたように笑う。
きっと彼女にとって七瀬遙より橘真琴派というのは、例えばアニメやゲームのダブルヒロインでこっちの方がいいみたいなレベルの意味なんだろうけど、それでも美代子ちゃんが、俺のことを褒めてくれた。
それが凄く嬉しくてたまらなかった。

「どうしたの真琴くん。顔が赤いよ」

美代子ちゃんのせいでしょ、なんて恥ずかしくって言えない。
この気持ちが、恋なんだ。
美代子ちゃんがこっちを向いて笑って俺のことを優しいって褒めてくれる。それだけで、俺は幸せだよ。


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テーマ「人外ファンタジー」
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