どうしてこうなったのだろう。いくら考えても、目の前にいる男の足元にも及ばないような知能指数を持つ私の脳では分からない。かと言って、確かにこの学校では中の下レベルだが、別段私は頭が悪いわけではないと思うのだが。私は小さくため息をついた。

今は3限目。英語の先生が休みということで自習になった。丁度ここにいることが出来る先生はいないらしく、私達を見張る人はいなかったが、この学校は進学校と呼ばれる位置にいるため、クラスの3分の2はしっかりと自習していた。残りは睡眠時間にしたり、周りの奴と雑談したり、読書したりと、まあそんなところだ。
私は何をしているのかと言うと、それは私が聞きたい。それを知っているのはただ一人。私の膝の上でスヤスヤと気持ち良さそうに寝ているこの男、瀬戸健太郎だけである。

自習と聞いて、本当は私もしっかり自習しようと思った。私はそこまで頭が良い訳ではないし、仲の良い友達はぐっすり睡眠中か、真面目に自習中だったから。
教科書とノートを開き、シャープペンをノックして芯を出したところで私の体は宙に浮いた。瀬戸が私を持ち上げたのだ。一番後ろの一番廊下側という地味な席なのに、こんなに注目される日が来るなんて。
しかも、両手を両脇に入れるなんていう持ち上げ方だった。みんながポカンとこちらを向く中、コイツは当たり前のように私を一度下ろすと、お姫様抱っこでもするのかと思いきや、俵担ぎで屋上まで運ばれた。

意外とソッと下ろされたが、彼は当然とでも言うように私の膝を枕にして、寝息を立てる。こうして冒頭に戻るわけである。

『ねー瀬戸ー、私、教室で自習したいんだけどー』

「…ん……勉強なんて後で俺が教えてやるから…」

『…はぁ…寝たいなら、勝手に寝ればいいじゃない』

「なまえのひざ枕が一番良い…好きな奴のひざ枕なんて最高だろうが……」

瀬戸は半分寝ぼけたような言い方で言うと、私の太股にちゅっと口づけた。

『っ…!!』

ああ、コイツはどういうつもりなのだろう。真っ赤な顔で慌てふためく私の姿が見たかったのだろうか。だったら丁度よいだろう。彼の場所からなら見上げたらすぐに見えるだろう。真っ赤な顔で慌てふためく私の姿が。

『…瀬戸っ!!』

「…うー…煩い…女の子ならもっとおしとやかにしろよ……んー…なまえ良い匂い…柔らかい太股…」

『さ、触んないで!!!』

瀬戸は耳を押さえながら、渋々といった様子で起き上がる。

『まったくもう…油断も隙も…っ』

瀬戸の髪が私の頬に当たる。腰には腕が回り、耳に息がかかる。

「…なまえ、好き……」

『なっ…!!』

瀬戸はぎゅと私の腰に回した手に力を入れた。


それは反則
(耳が急激に熱くなって)
(全身が熱いと気づいたのはもう少し後のこと)