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右目と犬

小十郎が、久秀に奪われた六爪を取り戻すべく、単身で久秀らの元に向かっているということを創痍が聞いたのは、今朝のことだった。無謀なことをする、と創痍は思う。彼は風魔と小十郎を迎え討つことを命じられた。しかし、創痍は風魔に共に小十郎と刃を交えることを拒まれた。一人で十分だという意味かと創痍は少し腹が立ったが、彼に何かあったときの為に待機することにした。(万が一それはないとは思うが)

「主君のためにそこまでするのか…」

ふと、もし自分が小十郎の立場だったら同じことをするかもしれないと創痍は考えた。葉の生い茂る木の陰に隠れ、遠巻きに久秀を見守る。久秀の元に辿り着いた小十郎は激昂していた。普段整えられている髪を乱し、視界の捕えた者を全て射殺さんとするような視線。禍々しい、その場に居合わせる者を刺すような殺気に、創痍は少しだけ身震いする。小十郎から身を翻してその場を去る久秀。その後を追いかけようとする小十郎を足止めする。後は風魔の出番だった。益々殺気立つ小十郎を見ながら、風魔は大丈夫なのだろうか、と創痍は少し心配になった。そういうこと、はまずありえないのだが。
しかしまさか、このようになってしまうとは。
力無く、膝から崩れ落ちる風魔に、小十郎は容赦なく刀を振り上げた。首を落とそうとするその手に迷いは一切無い。風魔が危ない、そう思うより前に創痍はその場から飛び出していた。

「はあい、ここまで!」
「っ?!誰だ!」
「…!」

膝をついた風魔、刀を振り下ろそうとしたまま、荒い息をはく小十郎。そして、その間に入った創痍。彼は自身の小刀を小十郎の刀と交え、風魔の首を跳ね飛ばそうとした行為を間一髪で阻止した。小十郎と創痍が顔を合わせるのは初めてのことだった。創痍は小十郎の気迫に思わず圧倒される。これが伊達の右目か、彼と刀を交えながら創痍は思う。胸中に芽生えた僅かばかりの恐怖に目を閉じて。創痍の持つ小刀はぎちぎちと耳障りな音を立て、小十郎の刀から、小さな火花が散った。これ以上この状態のままだと力負けするだろう、と読んだ創痍は小十郎の隙をついて、思いきり彼の腹を蹴り上げた。

「っぐ…!」

不意を突かれた小十郎は腹を押さえた。創痍は風魔を連れてその場から飛び退き、小十郎との距離を置いた。

「会うのは初めてだったねぇ、風魔のことあんまり苛めないでくれる?」
「てめぇ…質問に答えやがれ!」

深い傷を負った風魔の身体を見て、創痍は一刻も早く城に帰らなければと思った。今にも飛び掛かろうとせんばかりの小十郎に言った。

「俺は創痍。以後よろしく…政宗君にもそう言っといてよ」
「何っ…!」

再び彼らに攻撃をしようとする小十郎だったが、それよりも早く創痍たちがその場を離れた。黒い影を残し、烈風と共に。創痍と風魔を討ち損ねた小十郎は苛立ちに拳を震わせた。

「あの男…」

創痍の青い目。日の本に住む人間で初めて目にした特徴的なその容姿に、小十郎はどこか引っ掛かるところがあった。一つ、小十郎は以前聞いた話を思い出した。十数年前に壊滅したある忍の里。そこに住む人間は、確か。
そして創痍と一瞬だけ、刀を交えた時に感じた殺気は尋常では無かった。柔らかい表情、へらへらとした口調からは想像のつかない、とても恐ろしいもの。創痍の本性はそちら側ではないか、と。取り残された場で小十郎は一人刀を握り締めた。